研究課題/領域番号 |
17K01428
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
春田 康博 金沢工業大学, 先端電子技術応用研究所, 教授 (60538198)
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研究分担者 |
樋口 正法 金沢工業大学, 先端電子技術応用研究所, 教授 (50288271)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 医工学 / 生体計測 / 画像診断システム / 超電導 / 人工内耳 / 脳磁計 |
研究実績の概要 |
人工内耳装用者の聴覚機能検査を行う上で障害となる磁石ノイズと電磁ノイズについて対策を立案し、評価を行った。評価に際しては、外部研究協力機関である豪州Macquarie大学から、健常者による人工内耳を模擬した実験のデータ、および実際の人工内耳装用者のデータを受領し、試作した種々のアルゴリズムを適用した。磁石ノイズは聴覚刺激と非同期で、空間情報を利用した仮想リファレンスセンサによる方法、時間情報を利用したTime Shifted PCAによる方法を試み、有用性を確認した。一方、電磁ノイズは聴覚刺激と同期しており、同期加算による効果は期待できない。これについては聴覚刺激に高周波帯域の白色雑音を加えることでノイズを低減する方法を開発した。これらの方法を組み合わせることで、健常者による人工内耳を模擬した実験において聴覚誘発反応を検出することができた。 ノイズに埋もれた微弱な神経信号を検出するためには収録時に十分なダイナミックレンジを確保する必要があり、現在の16bitの分解能では十分とは言えない。そこで最適な分解能を決定するため計算機シミュレーションを行ったところ、16bitの分解能では不明瞭であった反応が18bitならば確認可能となり、さらに24bitであれば良好な解析まで可能となることが確認できた。この結果に基づいて、24bitの分解能を有するデータ収録システムを試作し、評価を行って必要な性能が確保されていることを確認した。当初の計画では予算の関係で16チャネルの評価用システムとする予定であったが、新規に市場に提供された高性能の部品で再設計し、対応するソフトウェアを開発したことで、実稼働も可能な36チャネルのシステムを構築することができた。また、解析アルゴリズムについても24bitの分解能に対応できるよう改造を行い、システム全体として高精度なデータの収録と解析が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では磁石ノイズと電磁ノイズについて詳細な検討と対策の立案、さらに外部研究協力機関である豪州Macquarie大学からデータを受領して評価を行う予定であった。磁石ノイズについては、仮想リファレンスセンサによる方法、Time-Shifted PCAによる方法などを試み、有用性が確認できた。また電磁ノイズについては呈示する聴覚刺激を工夫することでノイズを低減することが出来た。これらを併用することで健常者による人工内耳を模擬した実験において聴覚誘発反応を検出することができ、この目的は達成されたと考える。 並行して、十分なダイナミックレンジを有する収録系の構築と、それに対応した解析アルゴリズムの開発を予定していたが、これについては当初の限られた予算の範囲内で予定していた16チャネルの評価用システムを上回って、実際の人工内耳装用者の脳磁計測にも利用可能な36チャネルのシステムを構築することができた。解析アルゴリズムについても高分解能データに対応した改造を行った。さらにこの改造した解析アルゴリズムを使うことでデータ収録装置を16bit、18bit、24bitにした場合のシミュレーションも行うことができ、ハードウェアの設計に理論的根拠を与えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30 年度には、前年度に検討した結果を基礎に実評価と最適化を中心とした研究を推進する。開発したデータ収録装置は外部研究協力機関である豪州Macquarie大学に搬入して、健常者による模擬実験および実際の人工内耳装用者(ボランティア)を被験者とした検査を実施する。高精度の計測が可能となったため、測定データに含まれる脳磁成分のより高度な解析も可能になると期待される。こうして測定したデータに対して開発した種々のノイズ除去法を適用し、評価を行うとともに新たに見出された課題については対策を順次立案する。 このように試作と評価を繰り返すことで、人工内耳装用者の聴覚機能検査に必要な技術を確立し、またノウハウを蓄積してゆく。さらに実用化を目指して装置の高度化と最適化にも取り組むこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関しては、当初購入を予定した部品よりも高い性能のものが新たに市場に提供されたため、そちらを購入した。その結果、当初予定額をややオーバーしたが、単なる評価用でなく実稼働も可能な高い性能のシステムを構築することが出来た。一方、試作した装置の評価のため東京勤務の研究者が脳磁計の設置場所である金沢市に出張する予定であったが、研究所内の別プロジェクトで急遽余剰となった装置を流用することで東京のオフィス内で簡易的な評価装置を組み上げることが出来た。出張して慌ただしい時間内で作業することなく日常の勤務地で時間をかけて開発することができたため、予定していた国内旅費が不要となった。 次年度には今年度に生じた次年度使用額と翌年度分の助成金を合算して装置の最適化と実用化に取り組む。現在は性能を最優先した結果、高性能である反面、使い勝手とシステムの最適性の意味で課題を残している。これを人工内耳装用者の聴覚検査という目的に照らして必要十分な性能を見極めたうえで最新の市場情報をもとに部品を精査しなおし、実用性に優れた装置を試作する。こうして試作した装置を外部研究協力機関である豪州Macquarie大学に搬入して現地の脳磁計に組み込み、健常者および人工内耳装用者の脳磁を計測して実用化研究を推進する。装置の試作、豪州への設置と実評価を行うために物品費および国内旅費・国外旅費を使用する予定である。
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備考 |
CCD-KIT MEG Workshop at Macquarie University, 2017.12.4-6 https://www.ccd.edu.au/events/conferences/2017/KITMEG/index.php
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