研究課題
単一細胞のゲノムに生じた変異でも、その変異が増殖優位性に関与する遺伝子変異であれば、培養時間とともにその変異をもつ細胞は主要な構成細胞集団となるため、ヒト多能性幹細胞由来製品の品質管理を想定した場合、このような細胞の存在を検出する系を確立しておくことは重要である。そこで今年度は、ヒトiPS細胞の長期培養過程で生じたゲノム変異の存在について、以下の解析に基づいて評価した。① 「増殖速度の評価」に関しては、培養期間(継代数)および培養液の組成を一致させたiPS細胞を数株準備し、増殖速度を評価した結果、増殖優位能を獲得した細胞の出現を観察することはできなかった。次に、細胞集団中に僅かに潜む増殖優位能を獲得した細胞の存在を確認するために、② 「増殖優位性に関与するゲノム変異の解析」を実施した。iPS細胞の培養期に生じた変異(一塩基変異、挿入、欠失)を検出するために、次世代シークエンサーを用いたエキソーム解析を実施し、継代ごとにおける変異の蓄積を検証した。その結果、染色体3番、15番、19番に位置する遺伝子において、継代に伴った変異の蓄積が観察された。この結果は、細胞集団中に増殖優位能を獲得した細胞が僅かに存在することを意味し、これら変異に位置する遺伝子の機能が、増殖優位性と深く関わりがあることも示唆している。今後は、必要に応じて、エクソン領域以外にも、細胞の増殖優位性に寄与する遺伝子変異が存在することも予想されため、全ゲノムにまで解析範囲を広げ、高密度なゲノム変異解析を試みる。また、遺伝子の変異だけに着目せず、エピゲノムの状態なども視野に入れた包括的なゲノム解析を追加して行う必要があると思われた。
2: おおむね順調に進展している
iPS細胞の培養期に生じた変異(一塩基変異、挿入、欠失)の蓄積の検出に成功したことにより、細胞集団中に僅かに潜む増殖優位能を獲得した細胞の存在を見出すことができた。
「増殖優位性に関与するゲノム変異の解析」に用いる増殖優位性獲得細胞株を確実に取得するために、正常なiPS細胞に変異原性物質を添加することにより、増殖優位性の表現系を示すクローンを取得し、次世代シーケンサーを用いたエキソーム解析を実施する。エキソーム解析によって検出されたエクソン上の変異(一塩基変異、挿入、欠失)に関しては、継代数に伴って変異の蓄積が認められた領域に絞って情報処理を実施し、増殖優位性と関わりのある既知の変異だけではなく、未知の変異についても検証する。
一部の物品において当該年度内での納入が間に合わなかったため。また、研究資材の調達方法の工夫などにより、当初の計画より経費の節約ができたため。残金分は消耗品費及び旅費の一部として、次年度へ繰り越した。
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PLOS ONE
巻: 13 ページ: e0205022
10.1371/journal.pone.0205022