研究課題
昨年度までに、我々は、ヒトiPS細胞の細胞集団中に僅かに潜む増殖優位能を獲得した細胞の存在を、次世代シーケンサー(NGS)用いた全エキソーム解析により検出することが可能であることを示した。今年度は、ヒトiPS細胞の長期培養中における体細胞変異の蓄積パターンをより詳細に解析するために、様々なDNA変異解析アルゴリズムを用いて、培養期に生じた変異の変動をモニターし、ヒトiPS細胞の継代中における体細胞変異の蓄積パターンを評価した。3継代ごと(15継代まで)に収集されたエキソーム解析データを、3つの体細胞1塩基多型(SNV:Single Nucleotide Variant)解析アルゴリズム(Strelka、Virmid、GATK)により解析した結果、低アリル頻度(<5%)のSNVでさえも高精度で検出できることが確認された。次に、染色体ごとでDNA変異数の比率を解析した結果、著しく変異が集積している染色体の存在は観察されなかった。但し、12番染色体上に位置する変異のアリル頻度に関しては、25%付近または75%付近で一定している変異が多く存在していたことから、12番染色体がトリソミーになっていることが予想された。そこで、核型解析(G-band解析)により染色体異常を確認したところ、12番染色体のみがトリソミーになっていることが判明し、SNVの変異変動パターンを経時的に解析することにより、トリソミーの存在を予測できることが可能であると考えられた。また、メチル化関連遺伝子の発現や変異についても解析したところ、培養に伴った変化が認められなかったことから、継代によるメチル化異常は生じていないことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
複数の体細胞SNV解析アルゴリズムを用いて低アリル頻度のSNVを統合的に分析した結果、ヒトiPS細胞の長期培養期に生じたSNVの蓄積パターンから染色体異常の存在を予測することができ、当初計画していた実験をおおむね達成することができたと考えられるため。
これまでの成果を精査し、増殖優位性への寄与が推定された遺伝子と細胞増殖関連因子との相互作用について、分子生物学的手法を用いて解析を実施し、当該遺伝子の変異による機能異常が細胞増殖加速機構およびゲノム不安定化機構へ及ぼす影響について評価する。加えて、エクソン領域以外(イントロン領域、遺伝子間領域)に存在するSNVおよびInDelが及ぼす細胞増殖優位性への影響についても解析を進めたいと考えている。
次年度使用額が生じた理由は、研究資材の調達方法の工夫などにより、一部の物品において当初の予定より物品が安く購入できたためである。次年度使用額と当該年度残金分を合わせて、当該年度内での納入が間に合わなかった物品、及び、旅費の一部として次年度使用額の経費に組み込む予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Nature Communications
巻: 10 ページ: 2175
10.1038/s41467-019-09511-4