昨年度までに、ヒトiPS細胞の長期培養中における体細胞変異の蓄積パターンをより詳細に解析するために、様々なDNA変異解析アルゴリズムを用いて、培養期に生じた変異の変動をモニターし、ヒトiPS細胞の継代中における体細胞変異の蓄積パターンを、次世代シークエンサー(NGS)を用いたエキソーム解析により検証し、3つの遺伝子のエクソン上において、継代に伴った変異の蓄積が観察されたことを報告した。そこで今年度は、エクソン領域以外(イントロン領域、遺伝子間領域)にも、細胞の増殖優位性に寄与する遺伝子変異が存在することが予想されため、全ゲノムにまで解析範囲を広げ、高密度なゲノム変異解析を試みた。その結果、染色体1番、2番、4番、6番、7番、9番、10番、15番、19番、Xのイントロン上に位置する遺伝子において、継代に伴った変異の蓄積が観察された。特に、4番染色体のイントロン上においては複数箇所に変異の蓄積が認められた。このことは、これらイントロン上の変異によって近傍遺伝子の転写制御異常が発動され、細胞増殖の引き金になった可能性が示唆された。一方で、染色体4番、11番、14番、15番、17番、18番、19番のイントロン上に位置する遺伝子において、継代に伴った変異蓄積の減少が観察されたことから、これら変異に関しては細胞死や増殖抑制に関与している可能性が高いと思われた。興味深いことに、19番染色体に存在する補体第3成分(C3)遺伝子のイントロン上の4箇所の変異については、dbSNPに収載されている一塩基多型(SNP)であった。従って、これらSNPによるC3の機能獲得異常、及び、その制御因子の機能喪失異常が間接的に細胞増殖抑制に寄与していることが示唆された。
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