今年度は、昨年度までと同様に、失読症例の読みの障害の特徴と責任病巣を検討するとともに、失読症例が自宅で実施可能な自主練習教材の検討を行った。純粋失読のうち語性失読を呈する症例は、仮名を1文字づつであれば音読可能だが単語の単位で音読することができず、逐次読みとなることが特徴である。読みをさらに容易にするためには、1文字づつの音読を早くするか、単語のまとまりを即座に認知するか、のどちらかが必要である。そしてそれを数多く練習することが必要であると考えた。後者である単語としてのまとまりを認知することの方が、文を読む際には効率が良いが、これを実現することは失読症例には難しい。実際に、一昨年の症例検討において、複数の仮名文字を単語としてのまとまりとして認知できるかを検討したところ、文字の配置を入れ替えた誤りのひらがな綴りを単語として認知するなど、単語に含まれる仮名を誤って音読する傾向があることがわかった。そのため、仮名1文字の音読速度を向上させることが適した練習方法と考え、自宅でもその練習を実施できる方法を検討した。練習方法としては、仮名1文字の音読を何度も反復する、またはキーワード法に見られるような、仮名1文字と、症例自身が意識しやすいキーワードを連合させて学習する方法があると思われた。一方で、自宅での学習は、医療機関または介護機関での、セラピストとの対面学習と異なり、集中力や持続力、また意欲の継続を要すると思われた。また、このような注意や意欲の持続は、症例本人の意欲のみならず、通常服薬している内服薬などにも大きく左右されることがわかった。在宅で失読に対する自主練習を継続する際には、課題の内容のみならずさまざまな要因を検討し、適した教材を提供することが必要であると思われた。
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