研究課題
本研究の目的は、心血管疾患における脂肪酸の質的量的変化を臨床的に分析、膜リン脂質組成に着目して脂肪酸の質的量的変化を基礎的に解析、我々が本邦で初めて確立した1H-magnetic resornance spectroscopy(MRS)法による非侵襲的心筋内中性脂肪測定法を応用し、心筋・骨格筋フレイルに対する脂肪酸の質的量的変化を統合的に解明し、心血管疾患の発症や進展予防、新規心臓リハビリテーションプログラム開発に応用することである。本年度は、心血管疾患における各種血中脂肪酸分画の質的量的変化や栄養指標との関連を検討した。若年性虚血性脳梗塞例では、EPA/AA比とDHA/AA比は健常人に比し有意に低値であること、EPA/AA比の高値は急性冠症候群発症に抑制的に作用するが、喫煙によりその抑制効果が消失すること、急性の循環器疾患患者において栄養指標であるPNIと CONUTがせん妄発症と関連することを報告した。中性脂肪蓄積心筋血管症において、MRS法により心筋内中性脂肪含有量高値を確認することに成功した。さらに、心血管疾患患者のフレイル評価や運動耐容能予測に“基本チェックリスト”が有用であること、心臓リハビリテーションを施行した急性冠症候群患者において身体活動量がプラーク量や質の改善に関連することを明らかにした。基礎研究では、angiotensin IIにより誘導される骨格筋萎縮は、Nox4-Nrf2 シグナル伝達系を介した酸化ストレス亢進によること、老化モデルマウスにおける骨格筋萎縮には、Nox2やNox4を介した酸化ストレスによるタンパク合成の低下および異化の亢進が関連することを報告した。現在、臨床データの蓄積、基礎研究による心筋および骨格筋フレイルに対する脂質の質的量的変化についての検討を継続している。
2: おおむね順調に進展している
昨年に引き続き、種々の心血管疾患患者における脂肪酸の質的量的変化を臨床的に明らかにし、学会発表や英文誌に報告している。具体的には、若年性の虚血性脳梗塞、急性冠症候群、腹部大動脈瘤の進展、心房細動に対する肺静脈隔離術後の心房細動再発、急性静脈血栓症、急性非代償性心不全の予後、急性の循環器疾患患者におけるせん妄発症、などである。さらに、心臓MRS法を用いて中性脂肪蓄積心筋血管症における心筋内中性脂肪含有量が極めて高値であることを確認し学会発表を行い、心血管疾患症例におけるフレイルの判定に“基本チェックリスト”が有用であることを論文報告した。また、心臓リハビリテーション施行患者における身体活動度の維持が冠動脈プラークの退縮や安定化に関連する可能性を明らかにし、現在レジスタンストレーニングも含めた新規介入法の確立に向けて検討を継続している。基礎的には、加齢やangiotensin IIによる骨格筋萎縮にNox2やNox4を介した酸化ストレスによるタンパク合成の低下および異化の亢進が関連することを学会報告し、一部は論文での発表を行った。
今後も、種々の心血管疾患における各種血中および組織中における脂肪酸分画の質的量的変化を基礎的・臨床的に解析することを継続する。心筋および骨格筋のTG量を同時に測定することにより、心筋および骨格筋フレイルに対する脂質の質的量的変化を統合的に解明する。それらの結果を国内や海外学会で報告し、国内外の研究者と意見交換を進め、論文作成・投稿を行う。今後得られる脂肪酸分画と特徴的関連を認める疾患群においては、心臓リハビリテーションを施行し、運動療法の種類・強度・期間、栄養指導の内容との関連を検討する。さらに、モデルマウスの運動介入を行い、心筋や骨格筋における脂肪酸分画の変化、介入効果を基礎的に検証し、論文発表を目指す。
理由:平成31年3月の国際学会で研究内容の報告を行い、海外の研究者との意見交換を行う予定であったが、日程調整がつかず出張計画を取りやめた。この学会参加費に計上する予定の予算分を次年度に繰り越した。使用計画:前年度の繰り越し分は、動物モデルを用いた基礎研究のための各種抗体や試薬の購入費用、学会発表のための参加費や旅費、論文発表のための英文校正費用や投稿料に使用する計画である。
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