研究実績の概要 |
認知症の記憶・認知機能障害などの中核症状から派生する周辺症状(妄想・幻覚等の精神症状や徘徊・暴力等の行動異常など, Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, 以下BPSD)に対する緩和手段の1つとして音楽療法が取り入れられている.一方,人の耳に聞こえない20kHz以上の高周波音を豊富に含む音楽等は,それを含まない音を呈示した場合と比較して人の脳深部や周辺の脳を活性化させることが報告されており,ハイパーソニック・エフェクトと呼ばれている.副次的効果として,脳波α波増加,アドレナリンの低下など人の心理・生理に良い影響を与えることが報告されている.我々はこれまでに軽度な認知症の高齢者を対象に脳波の実験を行い,20kHz以上の高周波音を含む音楽(Full Range Sound, 以下FRS)場合と、高周波音を含まない音楽(High Cut Sound, 以下HCS)聴取時の頭頂付近の脳波を比較し,アルファ波帯域(8~13Hz)でFRS聴取の方が有意に大きくなることを確認している.老人保健施設においてBGMとしてFRSとHCSを2週間ずつ流し,音楽呈示前後で認知症患者の精神症状を評価する方法の1つであるNeuropsychiatric Inventory,(以下NPI)スコアの差を比較した.回帰分析の結果,FRSとHCS呈示期間の前後のNPIスコアの差に有意差が見られ,FRS呈示時にNPIスコアが減少することが確認された.これらのことから人の耳に聞こえない高周波音を含む音楽や自然音は,認知症高齢者の周辺症状(BPSD)の緩和に効果がある可能性が示唆された.
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