研究課題/領域番号 |
17K01496
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研究機関 | 公立小松大学 |
研究代表者 |
李 鍾昊 公立小松大学, 保健医療学部, 准教授 (40425682)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 老年学 / 予測制御とフィードバック制御 |
研究実績の概要 |
本研究では高齢者の上肢の運動制御能力と、高齢者に好発する脳の萎縮や神経疾患による運動機能障害を運動制御の観点から定量的に把握できる「高齢者の運動機能ナビゲーターシステム」の構築を目的とする。これまでの研究協力病院である4か所の医療機関(東海大学病院リハビリテーション科、東京都立神経病院、関東中央病院、順心リハビリテーション病院)の中高齢者スタッフと、共同研究先である大学の学生、シルバー人材センター(高齢者)の協力を得て20歳代の若者から70歳代の高齢者までを対象に「加齢に伴う脳の運動制御メカニズムの変化」や「小脳疾患やパーキンソン病などの神経疾患予備群の特定」を運動制御の観点から分析している。特に今年度には小脳性修復を根拠とする小脳性運動失調に対する新しい治療法を確立する研究を行い、その研究内容を共同研究者が英文雑誌(CNS Neurol Disord Drug Targets論文誌(2018))に掲載するのに3番目の著者として貢献した。また、高齢者の運動制御能力を脳からの運動指令を反映する筋電図信号に基づいて分析する新しい分析方法を共同研究として行い、その研究内容を共同研究者が英文雑誌(J. biomechanics(2018))に掲載するのに3番目の著者として貢献した。さらに高齢者に対する膝のリハビリにおいて表面筋電図信号から筋疲労をモニターリングする新しいシステムを提案し、その研究内容をBiomedical Engineering Letters論文誌(2018)に掲載した。そして、これまでの研究では、高齢者の3次元空間上の上肢運動を1次元或いは2次元の平面上に制限して行ってきたが、それを3次元仮想現実空間へ拡張し、3次元空間における指標追跡運動を定量的に評価するシステムを開発したので、その研究内容をScientific Reports論文誌(2018)に紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目である30年度には、加齢に伴う脳の運動制御メカニズムの変化を運動制御の観点から分析でき、さらに小脳疾患やパーキンソン病などの神経疾患予備群も特定できる「高齢者向け運動機能評価用のデータベース」に必要な症例を集めている。これまでの研究協力病院である4か所の医療機関の協力を得て記録した20歳代の若者から70歳代の高齢者までの112名を含め、パーキンソン病144名、小脳疾患(MS含む)43名、多系統萎縮症(MSA-P, MSA-C)27名から手首運動(指標追跡運動)を記録した。さらに手首による指標追跡運動において動きとその原因である筋活動の同時計測と分析により、運動関連の疾患の異常運動とそれをもたらす筋活動の異常を分析するアルゴリズムや指標追跡運動における高齢者と若者の制御方策の違いを分析し、運動関連疾患の診断や早期発見のできるパラメータを特定する研究内容を、平成30年度生体医歯工学共同研究拠点成果報告会で報告した。また、加齢に伴う脳の運動制御メカニズムの変化を分析するのに、手首運動だけではなく、上肢全体の動きやさらに膝と下肢の動きまで分析できるシステムの開発を韓国Handong大学と日本の群馬高専との共同研究として行っている。
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今後の研究の推進方策 |
最近パーキンソン病患者の運動中に見出されたマイクロステップス(6Hz前後の小刻みな階段状運動または微小振動)がパーキンソン病患者の病態評価に加え、脳卒中の回復にも高精度で評価できることが認められ、その内容を国内特許として登録した(特許第6322624号)。今後、このマイクロステップスの要素も含めた3つの制御要素の精度評価に基づいて20歳代の若者から70歳代の高齢者までの加齢に伴う脳の運動制御メカニズムの変化を分析でき、さらにパーキンソン病や小脳変性症などの神経疾患の予備群も特定できる「高齢者向け運動機能評価用データベース」を構築するために、2か所の医療機関(東京都立神経病院、関東中央病院)以外の連携病院(東北大学医学部)を増やし、各疾患における診断前や診断初期の病態やさらに薬物前後の評価に必要な症例を増やす予定である。また記録するデータにおいてもこれまでの手首関節による指標追跡運動だけではなく、上肢や下肢の動きも運動制御観点から分析できるシステムを構築する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目である30年度に研究代表者の所属機関が東京都医学総合研究所から公立小松大学に変わることになり、連携病院への出張や病院連携研究の支出が予定より減少し、さらに共同研究先から論文掲載費のご支援もあり、少額の研究費が残額として残ることになった。3年目である31年度には、新しい連携病院先である東北大学医学部にも多くの被験者から随時記録を行えるように手首システムを検査室に常備する予定である。特に、東北大学医学部にも連携先の病院スタッフが独自にデータを取得できるように指導する予定であり、定期的に出張し、スタッフの技量と記録システムのチェックを行う予定である。また、大量な患者データを保存するためのハードディスクドライブも購入する予定である。その以外には研究成果を学会に発表するための費用や連携病院への出張、英文論文校閲代、論文印刷代として31年度の研究費を使用する予定である。
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