健常若年者においては,身体重心位置をフィードバックさせることにより,圧中心を用いた姿勢制御を行いやすい可能性が示唆されたが,視覚フィードバックを与えても関節運動の協調構造は変化しないことが明らかになった.このため,当初は膝OA患者に対して関節運動の協調構造を高めるフィードバックの縦断的検証を行う予定であったが,高齢者において視覚フィードバックを与えた際の影響を検証し,膝OAの発症の一因を明らかにすることとした. 健常高齢者26人であった.課題動作は利き足を支持脚とした片脚立位動作を採用し,最大30秒間を2回試行した.実験条件は通常条件,鏡によるフィードバック条件,リアルタイムにて身体重心を視覚化させる条件とした.計測には,三次元動作解析装置および床反力計を使用して運動学・運動力学データを取得した.結果より,健常高齢者においては身体重心の視覚フィードバックを与えると,身体重心の安定化に影響を及ぼさない良い変動VUCMと影響を及ぼす悪い変動VORTともに小さくなり,特に股関節と足関節,胸部および頭部のばらつきを小さくしていた. 得られた成果より,健常高齢者は片脚立位保持時に身体重心位置を視覚フィードバックさせることによって,身体重心を安定化させ,関節運動のばらつきを小さくした姿勢制御戦略を行っていることが明らかになった.しかしながら,健常高齢者は,若年者と同様に身体重心位置を視覚フィードバックさせても関節運動の協調構造を高めることはできなかった.また,これまでの成果より軽度膝OA患者の片脚立位保持では,下肢のばらつきを少なくした姿勢制御戦略となっていた.以上のことから,軽度膝OA患者に対して身体重心をフィードバックさせることによる姿勢制御戦略は,関節運動の協調構造を高めることはできず,逆に膝OAを進行させる一因となる可能性が示唆された.
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