研究課題/領域番号 |
17K01511
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
紀 瑞成 大分大学, 福祉健康科学部, 講師 (60305034)
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研究分担者 |
河上 敬介 大分大学, 福祉健康科学部, 教授 (60195047)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 免疫組織化学 / リンパ管内皮細胞 / 内皮細胞増殖因子(VEGF-C/-D) / リンパ管新生 / 筋萎縮 / 筋浮腫 |
研究実績の概要 |
リンパ管系は骨格筋組織の恒常性維持に重要な役割を担っている。当研究グループでは、廃用性筋萎縮時、および筋力トレーニングによる筋萎縮からの回復促進応答と、筋内リンパ管分布との関係や、そのメカニズムの解明に取り組んでいる。 1)11週齢のC57BL/6Jマウスを2週間と4週間の尾部懸垂(Tail suspension, TS)による後肢筋萎縮モデルを作製した。各群からヒラメ筋などを採取し、凍結切片を用いてHE染色または免疫組織化学染色による観察を行った。結果として、対照群(Con)と比べて、ヒラメ筋の横断面積(CSA)およびCD31陽性毛細血管数はTS 2週とTS 4週ともに減少したことが分かった。LYVE-1陽性リンパ管数は、TS 2週では有意な差が無かったが、TS 4週では有意に少なかった。また、VEGF-CとEndostatinのタンパク発現量では、前者がTS 4週に、後者がTS 2週、TS 4週ともにCon群と比べて有意に多かった。TSによる廃用性筋萎縮に伴い、リンパ管分布構造の変化が毛細血管と比較してやや遅いことは、両脈管の役割の違いが反映していると考えられた。また、筋内リンパ管数の減少にはEndostatinが関与する可能性が示唆された。 2)筋萎縮に対する筋力トレーニング(TR)については、足関節の底屈筋群に低周波電気刺激による等尺性収縮運動を施行した。実験群では、4週間TSの後1-2週間のTRを行い、Con群では、4週間TSの後1-2週間に通常飼育した。また、底屈トルクの測定による筋力の評価や筋組織のHE染色像による横断面積の評価を行った。その結果、萎縮から回復促進の効果が示唆された。ただし、免疫組織化学染色等によりリンパ管の形態応答に及ぼす影響とそのメカニズムの検証は進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
該当年度の目標は萎縮筋に対する運動刺激がリンパ管の形態応答に及ぼす影響を検証することである。そのためにリンパ管内皮細胞の特異的マーカーであるLYVE-1、血管内皮細胞のマーカーであるCD31を用いて、免疫組織化学的に筋内毛細リンパ管及び毛細血管の同定や定量分析を行った。特に、筋萎縮4週目頃リンパ管の数が減らし、毛細血管の減少より遅れることが判明した。この結果から筋内微小循環の恒常性の維持に毛細血管と毛細リンパ管の役割の違いが示唆された。また、尾部懸垂モデルには筋浮腫に対するリンパ管の増殖応答が低下する可能性があるため、リンパ管の新生因子として重要と考えられているVEGF-C、VEGF-D、VEGFR-3のタンパク質量の解析が難航していた。そこで、血管内皮細胞の増殖や遊走を阻害するEndostatinなどの関与を検討し始めた。さらに、筋力トレーニングによる筋萎縮領域の筋線維回復が観察されたが、リンパ管の大きさや密度、内皮細胞の増殖能などとの関連性を調べるには、リンパ管内皮細胞特異的マーカーとして重要なProx-1やpodoplaninなどを併用すべきと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って研究を推進し、以下の3つの問題を解決する実験も行う予定である。1)筋萎縮からトレーニング強度による筋力回復促進応答を模索中ですが、マウスを用いた実験における運動負荷量の設定は、特にリンパ管に対する最適な負荷量が判明するのはかなり難しいため、さらに筋力測定装置の精度を上げ、動物の数を増やして検証する必要がある。2)筋萎縮に伴うリンパ管の分布が減少する傾向が認められたが、筋浮腫に関わる間質液の変化をどのように検証するかとの課題が残るため、筋萎縮以外に筋損傷モデルの作成が必要あると考える。筋損傷の回復に関わるリンパ管の機能・構造的変化や筋委縮時に比べることで、筋疾患におけるリンパ管の役割を考える上で重要である。3)タンパク質レベルの研究から疑問に思ったことを明らかにするため、RT-PCRを用いた遺伝子レベルでの解析に力を入れて取り組んでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
RT-PCR測定機器に合わせる検出手法ならびに試薬の感度を検討するのに時間がかかったため、予定した金額に少し残額が生じた。予定通り分子生物学的試薬の購入費用として使用する。
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