研究課題/領域番号 |
17K01515
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
根木 亨 札幌医科大学, 保健医療学部, 助教 (60457728)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 正弦波状負荷運動 / 血流依存性血管拡張反応 / 酸化ストレス / 交感神経活動 / エネルギー基質 |
研究実績の概要 |
急激な負荷変動であるインターバル負荷運動(HIT)に対し,正弦波状で,かつ負荷の立ち上がりが緩やかな運動様式として正弦波状負荷運動(SIN) がある.本研究では,総運動量,最大運動強度同一の条件のもと,SINとHITの経時的な循環応答の変化の違いを検討した結果,SINはHITよりも経時的な変化による血圧,心拍数の上昇は有意に低値であった.このことから,SINは,HITよりも血圧,心拍数の上昇を抑制しながら運動が可能であることが示唆された.また,至適強度策定のための条件として,負荷前後における活動筋に対する刺激量あるいは血管機能,HITにおける酸化ストレスの変化にも着目する必要性から,SIN,HIT,定常負荷運動の3様式間で運動前後における血流依存性血管拡張反応(FMD)および酸化ストレスの変化を検討した.その結果,SINとHITでは,FMDの変化に差はないが,酸化ストレスではSINがHITより低値であった.このことから,運動様式間では,血管内皮機能に及ぼす影響は同様であるが,酸化ストレスでみた場合にはSINがより血管機能に対して有効である可能性が示唆された.一方で,FMDや酸化ストレスの変化の変化は,交感神経活動に依存することが先行研究より明らかであり,運動様式に応じて交感神経活動の程度に違いが生じることが予想された.そのため,交感神経活動の指標として,運動様式間で経時的なカテコラミンの変化を比較検討することとした.その結果,SINはHITと比較して,血中カテコラミン濃度の上昇は有意に低値であった.このことから,SINでの交感神経活動は,HITより抑制されることが示唆された.こうした運動様式間での交感神経活動の差は,最大運動強度にかかる時間やエネルギー基質を要因とする可能性が高い.従って,運動様式間での血管機能とエネルギー基質との関係性にも着目すべきであると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では正弦波状負荷運動と高強度間欠的負荷運動および定常負荷運動における呼吸循環動態の変化を明らかにすることとしているが,酸素摂取量の動態についてみると,正弦波状負荷運動の周期が短くなるに従って,定常負荷運動時の酸素摂取量の動態に近づくことが報告されている.また,間欠的負荷運動との比較では,運動負荷の立ち上がりと同時に生じる循環動態の急激な変化に対して,正弦波状負荷運動ではより緩徐な変化を示し,その最大値も抑制されると考えられる.これまでの本研究では,正弦波状負荷運動とインターバル負荷運動で,血管内皮機能および酸化ストレスの反応,また交感神経活動における対比を行うこととして実施したが,交感神経活動の比較検討において,運動強度にかかる時間やエネルギー基質の動態が背景にあると考えられる.特に,正弦波状負荷運動では高強度間欠的負荷運動よりも,FMDでの差はないが,末梢血管内のシェアレートが高い傾向にあり,血中のエネルギー基質(糖質)の変動によっては,FMDへの影響も無視できないのではないかと考えられるが,その検討とする実験系を実施,分析するまでには至らなかった.そのため,今年度以降において,運動様式間での運動生理学的特徴および運動処方につながる知見の探索を続ける.研究実施自体は概ね進めることが出来ており,以後の研究実施も問題ないものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究において,正弦波状負荷運動は高強度間欠的負荷との比較で呼吸循環諸量や酸化ストレスの変化,また交感神経活動を抑えながら,血管内皮機能に同程度の機能改善を認め,高強度運動を実施できる可能性が示唆された.また,血中のエネルギー基質(糖質)の変動も関与することが考えられたため,これまでの結果の詳細な分析をもとに,正弦波状負荷運度における至適負荷量設定のための条件設定について検討を重ねる.また,これまでの実験では,すべて健康男性を対象としたものであり,今般の性差に関する研究情勢を踏まえ,女性も対象とした実験系の実施も視野に入れ,最終的に心大血管症例に対する運動療法の適応条件の探索も行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は,ほぼ既存の実験機材にて研究実施が可能であったが,一部機材(A/Dコンバータ:呼吸循環諸量のデータ取り込 み)において,ソフトウェア更新が必要な状況となったため,当該年度において支出した.なお,当該年度にて使用予定であった研究費の一部については,次年度使用額として繰り越す運びとなった. (使用計画)次年度においては,研究結果に対する詳細な分析および本研究課題に関する研究打ち合わせ,研究成果の発表に伴う印刷費,英文校正費用,投稿料などで必要と考えており,上記に挙げたこれらの項目に研究費を充当する予定である.
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