研究課題
悪液質に由来する骨格筋機能低下の治療や予防には,身体運動が有効であることは間違いない。しかし,臨床で遭遇する非感染性慢性疾患患者の中には,原疾患そのものの特異的な病態や二次的な廃用症候群,疾病の急性期や心循環器系の疾患を合併しているなどの理由で,積極的な身体運動を伴う運動療法を実施することが困難なケースも多く存在し,その代償となる治療法の早期開発が急務となっている。そこで本研究課題では,熱という物理的刺激とアミノ酸栄養に対する筋細胞応答に着目し,骨格筋の加温と分岐鎖アミノ酸の投与を組み合わせた新しい治療介入が,悪液質により引き起こされる代謝異常とそれに伴う骨格筋萎縮の進行過程に及ぼす影響を検討する。さらに,その作用機序を解明することで,悪液質に由来する骨格筋機能低下に対する治療や予防を目的とした効果的で効率的な治療法の開発に向けた基礎的資料を提供することを目的としている。2020年度は,悪液質を惹起するリポ多糖体または副腎皮質ホルモン投与によって萎縮が生じる骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)を用いて,分岐鎖アミノ酸またはビタミンDの投与が悪液質に伴う骨格筋萎縮の進行過程に及ぼす影響とその作用機序について検討した。その結果,筋管細胞に分岐鎖アミノ酸を24時間に1回の頻度で48時間投与しても肥大しないが,12時間に1回の頻度で48時間投与すると肥大することを確認した。また,筋管細胞に活性型ビタミンDを24時間に1回の頻度で48時間投与すると肥大することを確認した。さらに,筋管細胞に活性型ビタミンDを投与すると,悪液質に伴う萎縮進行が軽減されると同時に,タンパク質合成に関わるシグナル伝達系の不活性化が抑制されることを明らかにした。
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