研究実績の概要 |
一昨年度に開発した脳卒中片麻痺上肢の運動イメージ能力の定量的評価手法を用いて、昨年度、実際に脳卒中患者を対象にその能力を調べたところ、上肢運動イメージ能力が日常生活での上肢の使用頻度ならびに上肢の運動機能が関連することを明らかにした(Morioka S, et al. Ann Clin Trans Neurol, 2019)。運動イメージ能力には、自らが運動を起こしているという意識を指す運動主体感(sense of agency)が関係していると考えられている。そこで今年度は、脳卒中患者を対象に上肢運動時の運動主体感を調査した。その結果、脳卒中患者では高次脳機能障害を伴わなくても、麻痺側上肢の運動主体感が低下することを明らかにした。とりたてて、脳卒中患者では、健常高齢者に比べ、他者運動を自分の運動と判断してしまう誤った自他帰属をすることが示された。さらに、その低下、すなわち、誤帰属は麻痺側上肢だけでなく非麻痺側上肢でも生じることがわかった(Miyawaki Y, Morioka S, et al. PLoS One, 2020)。また、2名の脳卒中患者を対象に、運動主体感と脳卒中後運動障害の関係性について縦断的に検証した。その結果、運動障害がごく軽度で日常で麻痺肢を使用できている脳卒中患者では、誤帰属を認めなかった一方、運動障害を有し日常で麻痺肢を使用できていない脳卒中患者では、発症後4週目で他者運動を自分の運動と判断してしまう誤帰属を認めた。また興味深いことに、この誤帰属は運動障害が回復し、日常生活で麻痺肢をほぼ正常に使用し出した時点で改善することがわかった(Miyawaki Y, Morioka S, et al. Brain Res, 2020)。なお、現在、母集団を多くするために、縦断的調査を継続しており、脳卒中後の上肢運動障害の回復過程において、運動イメージ能力や運動主体感の回復がどのように関係するか調べている。
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