研究課題
前年度までの実験では、ラット股関節筋群(腸骨筋、長内転筋、恥骨筋、大内転筋)にボツリヌス毒素(BTX)を長期投与(4週毎に2回)することで筋力低下を惹起し、大腿骨幾何学形態への影響を調査した。その結果、BTX投与側は反対側及び同週齢の対照と比べ、大腿骨頚部横径減少と骨幹部近位の側弯角度減少を認めた。反対側との比較では、大腿骨幹部の骨皮質面積の減少、頸部横断面積が減少した。さらに、昨年度と測定方法を変更して前捻角を測定したところ、反対側と比べBTX投与側で減少を認めた。最終年度である当該年度では、BTX注射後のトレッドミル歩行動作の解析を実施した。両側大腿骨をX線CTで撮影し、大腿骨幾何学形態を定量的に分析した。さらに、腸骨筋と大腿骨は組織学的解析に用いた。その結果、腸骨筋の組織学的解析ではBTXを投与したでは、著明な筋萎縮が認められた。一方、歩行時の後肢への荷重量の指標である後肢荷重時間の左右比はほぼ同じであった。また、股関節屈曲・伸展角度や可動域においての著明な左右差は認められなかった。大腿骨近位の組織学的解析では、明らかな病理学的変化は認められなかったものの、大腿骨頭前方における関節軟骨厚はBTX投与側で非投与側よりも小さかった。以上のことから、著明な跛行を呈さない股関節周囲筋筋力低下であっても、成熟動物の大腿骨近位の形状を変化させ得ることが示唆された。特に、変形性股関節症のリスク因子とされる前捻角の増加が股関節筋力低下により生じたことは興味深い。一方、股関節筋力低下と股関節病態発生の因果を示す結果は得られなかった。
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