口から食べることは、健康維持に重要である。これは、栄養の問題だけではないようだ。なぜなら、高齢者の医療・介護の現場では、口から食べる代わりに、胃や血管から栄養を補っても、元気が出ないことがよくあるという。これはなぜか。本研究では、飲み込むときにのどが刺激されると、甲状腺から健康維持に重要なホルモンが分泌されることを見出した。 甲状腺は、全身の代謝を調節するホルモン、サイロキシンやカルシトニンを分泌する。これらのホルモンの分泌は、血液中の化学物質によって調節されることが知られているが、甲状腺には自律神経も豊富に分布する。これまでの研究で、ラットの甲状腺から出る血液を採取し、そこに含まれるホルモンを測定し、甲状腺へつながる副交感神経を含む上喉頭神経を電気刺激によって活性化すると、甲状腺からのサイロキシンとカルシトニンの分泌が刺激中に2―3倍に増加することを見つけていた。 そこで本研究では、食物が咽頭を通る刺激により、甲状腺からのホルモン分泌が増えるか調べた。やわらかいバルーンを口から咽頭に出し入れすることで、麻酔をかけたラットの咽頭を刺激した。咽頭刺激中、サイロキシンとカルシトニンの分泌が、刺激前の約2倍に増加した。この反応は、咽頭に物が触れたことを脳に伝えるメカノレセプターが刺激され、甲状腺支配の副交感神経が活性化することで起こる反射であることも明らかにした。 以上の結果から、食べ物を飲み込むときには、のどのからの情報により、甲状腺の副交感神経が活性化する反射が起こり、サイロキシンとカルシトニンの分泌が高まると考えられる。サイロキシンは基礎代謝を高め、カルシトニンは骨を強くする作用をもつホルモンである。従って本研究の成果は、口から食べることが心身の健康維持につながるしくみを示すものである。
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