研究課題/領域番号 |
17K01562
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
川中 普晴 三重大学, 工学研究科, 准教授 (30437115)
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研究分担者 |
高瀬 治彦 三重大学, 工学研究科, 教授 (10283516)
鶴岡 信治 三重大学, 工学研究科, 教授 (30126982)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 認知症評価 / 図形描画テスト / タブレット端末 / 運動機能評価 / ペンストークデータ / 健康・福祉工学 / リハビリテーション科学 |
研究実績の概要 |
現在,高齢の認知症患者の増加は社会・医療問題となっており,認知症の予防および改善することは現代社会において大きな課題である.これらの課題を解決するために現在,様々な取り組みがなされている.本研究では現在,認知症検査のためのタブレット端末を用いた描画テストならびに運動機能の評価システムの構築のための検討を進めている.特に今年度は,(1)介護施設において毎日実施されている身体機能の維持や向上や脳の活性化を目的としたレクリエーションの一環として実施できるような認知症評価システムに関する研究開発を継続するとともに,(2)モーションセンサを用いた認知症進行度と運動機能の評価に関する基礎的な研究とシステムの開発,ならびに介護施設と共働で評価実験を行い,開発しているシステムや運動機能評価法の有効性について検討した. 特に,2019年度は(2)に関する取り組みとして,Kinectなどのモーションセンサを用いて高齢者の表情を認識・評価することにより,認知症の進行度を評価するシステムに関する研究を進めた.このようなシステムを積極的に介護の現場に導入することにより「認知症のチェックテストであること」を意識させることなく介護施設利用者の各種認知機能を評価することが可能となる.ここではその基礎的検討として,Microsoft Kinectを用いてユーザ(高齢者)がゲームをプレイしている最中の動作をキャプチャし,そのから運動機能の評価が行えるようなシステムを発案するとともに,プロトタイプシステムを作成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,モーションセンサを用いて高齢者の表情を認識・評価することにより,認知症の進行度を評価するシステムに関する研究を進めてきた.ここではKinectを用いて,ユーザがゲームをプレイしている最中の動作をキャプチャし,そこからユーザのスケルトンモデルを抽出する.このスケルトンモデルを活用することにより,ユーザの腕や足などの位置を,座標データとしてリアルタイムに計測できるようなシステムを作成した.また,システムにより得られた位置情報は動作認識モジュールに送られ,所望の動作が行われているかを判定するために用いられるとともに,動作データベースにも保存される.撮影された動画についても同様にデータベースに保存され,運動機能の評価に活用される.また,評価に用いるゲームコンテンツは様々なレクリエーションコンテンツを提供できるようなアーキテクチャとしている. 本研究課題では,県内の介護施設と共同でシステムの使用感や計測精度に関する評価実験を行った.ここでは当該施設の利用者において認知症の症状が確認された高齢者と施設職員,ならびに学生6名の計12名を被験者とした.健常者と認知症患者を比較するための特徴量として,動作メッセージが画面に表示されてから被験者が動き始めるまでに要した時間(立ち上がり時間)を計測した.実験の結果,認知症患者は健常者と比較して動き始めるままで時間を要している結果が得られており,いくつかの動作については統計的な有意差が見られた.また,この理由についても考察・検討を行っている. 上記のように,今年度介護施設で評価実験を行うためのプロトタイプシステムを開発するとともに,実験結果から認知証高齢者と健常者の間での運動機能の差に関する一定の知見も得られていることを勘案すると,本研究課題は概ね順調に進んでいると考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は,これまでに得られた知見を,現在開発しているシステムにフィードバックするとともに,システムのブラッシュアップやバージョンアップを進めていく予定である.本実験では被験者数が十分でないため,その妥当性を議論するには,より多くの被験者による評価が必要となる.評価実験におけるサンプル数を増やすことで認知症の傾向がより明確になるとともに,分類精度もより現実的なものになると考えられる.そのため今後は,引き続き県内の介護施設と協力しながらシステム評価を進めていく.さらに県内にある他の介護施設との連携も模索していく予定である. また,評価実験では椅子に座った状態であったため,動作認識部分において誤認識が発生したり,ユーザから文字が見えにくいといった意見もあった.今後は被験者の姿勢によらず,正確に認識できるようにシステムの改良を進めるとともに,メッセージ部分の視認性も含め,ユーザインタフェースについても検討と改良を進めていく予定である. さらに,単純な手指巧緻動作における利き手の運動速度が,認知機能の記憶および注意の低下と関連しているという報告や,認知機能は手指巧緻性と高い関連を示したという報告もあるため,今後は手指の運動機能と認知機能の関係性に着目した運動機能の評価システムに関する開発も進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
発表先学会の変更や購入予定機器の変更,実験補助人員の変更などの理由により,執行額が当初計画とは異なってしまった.次年度については,すでに国際会議発表や論文投稿の計画があるために,次年度使用額については,これらの活動のために使用する予定である.なお,当初計画していた学会や学術集会にも参加し,研究発表を行う予定である.
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