本年度が本研究期間の最終年度にあたるため,これまで得た研究成果を広く公開・発信することに力を入れた.7-8月にカナダのカルガリーで行われた国際会議 (International Society of Biomechanics XXVIIth Congress)のMuscle Generalのセッションにおいて,“On the relationship between advanced glycation end-products (AGEs) and surface EMG on lower limb muscles in elderly persons”という題目で発表した.高齢者および若者30名を対象に下肢5か所からAGEs (最終糖化産物)を計測し,最大随意努力時の5つの下肢筋群から得たEMG信号波形に離散ウェーブレット変換を適用することで算出したパワー値の平均(Pj)を用いて,AGEsとPjの相関関係を分析した内容である.EMGは450-20Hzの帯域を3つの帯域に分け,それぞれを,1.速筋繊維,2.速筋繊維・遅筋繊維の混合,3.遅筋繊維,の活動に由来するものとの仮説を立て,AGEsと相関分析を行った.その結果,臀部のAGEsの値と大殿筋のEMGの平均パワー値とに統計的に有意な負の相関が認められた.人間は高齢化していく過程の中で,大殿筋において速筋繊維と遅筋繊維の両者が減少し,筋活動の総体が低減していくのと並行し,AGEsの蓄積が認められるという基礎的な知見を得た.しかしながら,AGEsの蓄積と筋活動低下との因果関係は未解明である.本研究から,加齢の影響は下肢の中では特に臀部が強く受けると言える.その生理学的なメカニズムの解明に関しては今後の課題である.
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