研究課題/領域番号 |
17K01583
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
淺香 隆 東海大学, 工学部, 教授 (50266376)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 粘度可変型栄養剤 / 濃厚栄養剤 / 増粘多糖類 / アルギン酸ナトリウム / キサンタンガム系増粘剤 / 半固形化 / 粘度 / 人工胃液 |
研究実績の概要 |
本研究では濃厚栄養剤の経管補給に関連した「液体栄養剤症候群」の解決を目的に上市された「粘度可変型栄養剤」に代わる、「患者の病態に応じた『オーダーメイドの粘度可変型栄養剤』を自己調製する」手法を確立すると共に、自己調製時の問題点・注意点を明らかにして患者とその家族、医療従事者や介護支援者へ情報発信・提供することを目標としている。 平成30年度も市販の濃厚栄養剤と増粘多糖類を組み合わせて粘度可変型栄養剤を試作した。ここで凝固剤であるアルギン酸ナトリウムは分子量の異なる2種類を用い、また市販のキサンタンガム系増粘剤は調製時の利便性を向上するため「ペースト」を試作し研究に供した。さらに人工胃液との反応調査ではpH=1.2の人工胃液の他、特に高齢者や胃食道逆流の既往を有しH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬による治療を受けている患者を想定し、pH=4の人工胃液も調製して研究に供した。 結果、アルギン酸ナトリウムを凝固剤として用いた場合、まず超低分子量の原料では濃度を10%としても人工胃液との反応や凝固の効果を明確に捉えることができなかった。そこで、これまで用いた高分子量原料のゾル水溶液を調製して栄養剤と混合し、粘度可変型栄養剤を試作した。これを人工胃液へ加え37℃で1時間震盪攪拌を行った結果、アルギン酸ナトリウム濃度および人工胃液(pH=1.2)比率の増加と共に試作した栄養剤が凝固した。しかしpH=4の人工胃液では粘度増加のみであり、試作した栄養剤は胃液のpHに依存して凝固することを見出した。 一方、試作したキサンタンガム系増粘剤ペーストを用いて同様に調査すると、人工胃液のpHが4では粘度増加のみであり、pH=1.2では原料の栄養剤3種類のうち2種類が凝固した。この差違は、栄養剤にタンパクが含まれると低pH下で凝固するが、アミノ酸では凝固作用が無いことが原因であると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究成果より、凝固剤にアルギン酸ナトリウムを用いて試作した「粘度可変型栄養剤」では、アルギン酸ナトリウムと人工胃液の主成分である塩酸が反応して水に不溶なアルギン酸へと変化し、栄養剤表面が凝固することが確認できた。また、これまで「離水」と判断していたことは本来の離水ではなく、むしろ人工胃液の存在そのものであり、胃内で粘度可変型栄養剤の半固形化は達成できたと考えた。なお、胃液のpHが中性側へ移行すると共にアルギン酸ナトリウムの凝固作用が低下することも判明したが、一方では増粘作用は喪失していないことから、本研究の申請当初に予想していた「アルギン酸ナトリウムと各種濃厚栄養剤に含まれる2価の陽イオンとの間でイオン交換による架橋が生じた」結果、確実に増粘効果が得られることを確認できた。 他方、市販のキサンタンガム系増粘剤を利用した「ペースト」を試作したが、これは「市販の計量スプーンを用いて確実に秤量でき」「スプーンのまま栄養剤中で撹拌して完全に溶解したことを確認できる」こと、すなわち介護者の利便改善を企図したものである。また、キサンタンガム系増粘剤は前述したように低pH(強酸性)下でも増粘効果が認められることから、今後、アルギン酸ナトリウムとキサンタンガム系増粘剤を同時に添加した「粘度可変型栄養剤」の研究を進める契機となった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成31年度は、これまで得られた成果をもとに凝固剤にアルギン酸ナトリウムを用い、さらに粘度付与を企図してキサンタンガム系増粘剤を添加した「粘度可変型栄養剤」を試作し、人工胃液との反応性を粘度などの物性測定手法により評価する。 さらに、古典的な制酸剤である炭酸カルシウムや酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等をpH=1.2の人工胃液へ加え、試作した粘度可変型栄養剤と混合した際の物性変化についても、時間が許す限り連携研究者や研究仲間の協力を仰ぎ調査を進める計画である。 一方、キサンタンガム系以外の増粘剤や個々の増粘多糖類と濃厚栄養剤および人工胃液との反応性についても、時間が許す限り調査を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由):研究の進展により平成29年度に購入した音叉振動式レオメーターが1台では足りず追加導入が必要となったが、時期的に次年度予算の前倒しができなかったため、平成31年度予算との合算による購入を企図して本年度は最低限の予算執行とした結果、945,986円の次年度使用額が派生した。 (次年度の使用計画):次年度使用額は945,986円であり、平成31年度の交付予定額は600,000円であることから、これらを合算すると1,545,986円となる。前述したように、平成31年度は自己調製した粘度可変型栄養剤と人工胃液の反応機序解析のための音叉振動式レオメーターの購入に約150万円、残額を実験用消耗品の購入に計上・充当する予定である。
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