本研究は高齢者の歩行能力や運動機能低下を「見える化」する手法として、超高感度静電誘導電流検出技術を用い、被験者に一切装置を装着することなくアンビエントに人体動作を検出し高齢者の生活支援を実現するシステムを確立することを目的として実施した。さらに、歩行機能を推定し歩行能力の推移や運動機能の異常等を検知する技術の確立を目指した。最終年度は被験者の歩行運動のみならず、日常動作にも個人固有の特徴と運動機能の変化の「見える化」が可能であることを明らかにした。研究期間全体の成果は以下のとおりである。本研究では歩行動作や日常動作による人体電位変動を、被験者から数メートル離れた位置に設置した電極に誘起される微弱な静電誘導電流を検出する技術を確立した。歩行運動により誘起された静電誘導電流波形をウェーブレット変換することによりスカログラムを得た。さらに、得られたスカログラムを画像解析することにより、被験者の動作の周期性や非周期性の特徴を可視化できることを示した。また、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた深層学習により、スカログラムに基づく歩行動作の識別が可能であることを明らかにした。さらに、不自由歩行を模擬するため、健常者の膝を添え木とサポータで固縛し歩行信号を検出した。この模擬不自由歩行運動により誘起される静電誘導電流波形を計測し、波形をウェーブレット変換することによりスカログラムを得た。このスカログラムには歩行の不自由の程度に応じた特徴が現れており、深層学習のCNNを用いることにより被験者の歩行動作から歩行動作における不自由さの程度を識別することを試みた。その結果、約90%の精度で歩行の不自由の程度を識別可能であることを明らかにした。
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