研究課題/領域番号 |
17K01596
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
奥野 竜平 摂南大学, 理工学部, 教授 (90294199)
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研究分担者 |
一ノ瀬 智子 武庫川女子大学, 音楽学部, 教授 (80388800)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電子楽器 / 呼気 / 高齢者 / 音楽療法 / 軽度認知障害 |
研究実績の概要 |
本申請では楽器演奏経験がほとんどない高齢者を対象にした新しい電子楽器演奏システムを開発し,認知症予防への有用性と限界を示すことを目的とする.具体的には,申請者らが開発してきた脳性麻痺などの運動障害者に適用しているバリアフリ電子楽器(サイミス)をもとに,軽度認知障害を持つ高齢者(MCI高齢者)でも合奏できるように改良した電子楽器システムを開発すること目的とする.本年度は下記の項目について研究を遂行した. (1)楽器演奏を模倣した演奏デバイスの試作:前年度の設計をもとに,呼気圧を計測し,音・消音時刻や音量などを制御可能なデバイスを試作した.複数人が演奏デバイスを使用する状況を考慮し,保守や消毒の容易さを考えポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)の容器に内包したゴム風船に呼気を入れることで,呼気圧を計測するものである.また,弦楽器としてはパソコン等で用いられているマウスや加速度センサなどを用いて擦弦動作を計測し,楽音の制御可能なデバイスを試作した.そして演奏実験を行い,楽曲演奏において音量などの制御が可能であることを示す (2)合奏支援システムの開発:合奏時のシステムの試作と計測システムの試作を行った.本合奏システムでは,指揮者やリーダーがトリガーとなる信号を全ての電子楽器に伝送することで,電子楽器の演奏時刻の同期を行えるようにしたものである.2台の電子楽器を用いた演奏実験を行い,発音する音符と発音時刻などの演奏状況を計測可能であることを示した. (3)認知機能評価方法の検討:2台の電子楽器を用いた演奏実験を行い,演奏時における音符の発音時刻を計測した.その結果,予めプログラムされた一定テンポの演奏における発音時刻(理想発音時刻)と,演奏者が実際に演奏した時の発音時刻の差を計測した.その結果,発音時刻の誤差が演奏上達度の評価指標となる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は管楽器の演奏法を取り入れた呼気および吸気により発音時刻と音量制御が可能な演奏デバイスを試作した.空気圧センサおよびマイコンモジュールArduino を用いることで個人に応じたパラメータの調整等が容易に行えるものである.また,合奏システムにおいては,演奏開始のトリガー信号を演奏に用いる電子楽器に送信することで,楽曲のテンポ等を同期させること,それぞれの演奏者の発音時刻などの演奏状況の計測が可能であった.このことから本年度予定した研究項目を概ね遂行することできたものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は過去2年間に得られた成果をもとに以下の計画に従い研究を実施する. (1)健常者を対象とした合奏システムの予備実験:試作した合奏システムを用いて健常者を用いた予備実験を実施する.演奏者が楽曲の合奏可能であることを確かめるとともに,改良すべき点を改良する. (2)サイミスによる合奏実践と評価:実際に高齢者による合奏実験を実施する.評価方法としては,演奏時の誤差に関して定量的な解析を行うとともに, MMSEやcogfiveなどの認知機能検査を実験前後に実施することで,電子楽器演奏による認知機能向上に対する有用性と限界を明らかにする.また,普及のために必要な音楽療法士による音楽療法プログラムを確立するための知見を得る. (3)合奏システムの改良:演奏実験によって明らかになった改良すべき点を改良し,合奏システムの実用化のための知見を得る.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度において,福祉施設の協力のもとに合奏実験を行う予定である.そのため,既存のPCとは別に合奏実験のための電子楽器システムを約5台追加で購入する必要がでてきた.そこで,前年度の未使用額と本年度予算を含め購入する予定である(約40万円).他に演奏デバイスの試作のための電子部品(10万円),解析用ソフトウェア(15万円),研究成果の学会発表のための旅費(30万円)の支出を予定している.
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