研究課題/領域番号 |
17K01598
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
藤本 真作 岡山理科大学, 工学部, 教授 (00278912)
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研究分担者 |
小林 亘 岡山理科大学, 工学部, 講師 (00780389)
赤木 徹也 岡山理科大学, 工学部, 教授 (50311072)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 空気圧アクチュエータ / 補装具 / 腰痛 / QOL向上 / 制御系設計 / 体圧センサ / 下腿装具 / システム同定 |
研究実績の概要 |
研究の目的は高齢者のQOL向上および、身体的・精神的負担を軽減化するために、使用者の個別仕様化を実現したアクティブ補装具の制御方法を確立することである。 平成29年度は空気圧繊維状アクチュエータの開発とそのモデルの構築を行った。補装具用の空気圧繊維状アクチュエータ(PRA: Pneumatic Rubber-fiber constricted Actuatorと略す。)として、シリコンチューブを蛇行させながらゴム繊維(布)に縫い付けることで、PRA自体を直接的に収縮させる構造を考えた。ところが、この駆動方式がこれまでの空気圧アクチュエータとは大きく異なることから理論モデルが全くないため、そのモデルを構築する必要があった。そこで開発したPRAの静特性および動特性モデルを理論的な非線形方程式からモデル構造を導出した。またそれらの未知パラメータはシステム同定の見地から制御系設計用の精確なモデルを構築することができた。 つぎに補装具を制御するためのOn-Off弁による制御弁と体圧計測センサの開発に取り組んだ。補装具用制御弁には小型のOn/Off弁を2個組み合わせた制御弁で構成されている。空気圧の動作は給気・排気・維持の3つの動作モードが可能である。各モードに応じて高速にOn/Off弁をスイッチングすることで目標の圧力に制御することができる。このスイッチング制御はスライディングモード制御と捉えることができるため、この方式で制御系設計を試みた。さらに、試作するアクティブ補装具には着け心地を計測するセンサが必要である。そこで腰部周りで装着時の圧力変動の大きい腹部の体圧計測センサの開発を目指した。計測原理は補装具用制御弁によってゴム繊維内部のバルーンを加圧し、弁をOffの状態にすることで感圧部に加えられた体圧を制御弁に取り付けられた圧力センサで計測することができる体圧計測センサである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
補装具の空気圧繊維状アクチュエータ(PRAと略す。)として、これまでに従来の空気圧アクチュエータをゴム繊維に内挿したPRAを開発してきた。しかし、従来型PRAは収縮率が最大で8%程度で、収縮力が最大で75Nであった。その原因として、McKibben型アクチュエータが収縮した結果として間接的にPRAが収縮するため、収縮率や収縮力が小さくなると考えられる。そこで今年度改良したPRAはシリコンチューブのみを蛇行させながらゴム繊維に縫い付けることで、PRA自体を直接的に収縮させる構造に変更した。その結果、改良型PRAは従来型に比べ収縮率が15%(約2倍)で、収縮力が90N(約1.2倍)と優れたアクチュエータを開発することができた。 改良型PRAは従来型の駆動方法とは大きく異なるため静特性・動特性モデルが存在しない。そこで静特性モデルを空気圧による仕事の入出力収支が等しいと仮定するとともに、非線形特性をひずみが20%までに限定し線形化することで、収縮力はPRAの内部圧力とひずみの2次関数で表現できることを理論と検証実験によって確認した。一方、制御弁および負荷容量を含む動特性モデルについては、亜音速と音速との臨界点周りで線形化することで2次系+むだ時間系(1次系と1次系+むだ時間系)になることを確認した。 空気圧駆動系のひとつの問題に制御弁が大きく重いという問題があった。そこで本研究ではOn-Off弁を2個用いることで、非常にコンパクトで軽量な制御弁を開発することができた。ところが、その制御系設計法が確立されていないため、スライディグモード制御を用いることで設計可能であることを示した。最後に、腹部の体圧計測センサの開発を行い、外部圧力によって線形的に計測できるセンサを開発することができた。 以上のことから今年度の研究は申請書に記載した目標に対しておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
空気圧システムは安全でクリーンなエネルギ媒体としてロボット工学分野だけでなく、医療・福祉分野などで幅広くその利用価値が認められつつある。そこで本研究で開発した空気圧繊維状アクチュエータを5つと体圧計測センサを利用したアクティブ補装具の試作を試みる。補装具には腰部の不要な動作抑制と腹腔内圧上昇を可能とする構造が求められる。動作抑制のために可動部分を含むような幅広で体にフィットするベルトと、腹腔内圧を上昇させるための強い締め付けを行う細幅のベルトを組み合わせた2重締め機構を有する予定である。内側(1層目)には腰部と直接接触し、締め付け動作の土台となる幅広のベルトと下前腸骨棘(骨盤の左右にある突出している部分)の締め付けや固定を行うベルトが左右に装備されている。また、外側(2層目)には腰部に強い締め付けを加えるための細幅のベルトが左右に配置しようと考えている。そしてこのような仕様に基づいた補装具を試作し、それに対する制御系設計用のモデルを構築することにする。制御系設計には階層式の制御系を構成することでその問題解決を図る。 本制御系は下位・中位・上位レベルの3階層から成り、下位レベルではアクティブ補装具を構成するアクチュエータ群を従来の線形制御理論に基づいて制御系設計および制御を行う。体圧の計測には今年度開発した体圧計測センサを用いることにする。下位レベルの制御系設計については、スライディングモード制御と予見制御に基づいたコントローラ(レギュレータ)を用いることにする。つぎの中位レベルでは日常レベルでの要求や動作に応じてサポート力を調整する(オンデマンド化)。また、上位レベルでは使用者の体型や体力に応じてサポート力を最適に調節する(カスタマイズ化)。これらのレベルに応じた制御を行うことで、必要最小限の空気量で効率的なサポート力を発生させる制御系が構築できると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内の学術講演会に参加を予定にしていたが、他の会議と重なり参加できなかったため10,034円が次年度使用となった。
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