研究課題/領域番号 |
17K01605
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研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
藤岡 潤 石川工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (20342488)
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研究分担者 |
宮下 大輔 長野工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (70353274)
川除 佳和 石川工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (90552547)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 褥瘡ケア / 体圧分布 / 導電繊維 / 編物 / 見守りシステム |
研究実績の概要 |
褥瘡予防の研究において褥瘡要因の評価に体圧分布計測装置が用いられてきたが、従来の機械的な装置は柔軟性や通気性、価格の面で問題があった。本研究の学術的な特色は体圧分布計測装置として導電性編物製敷布を用いることで、柔軟性・通気性が高く、かつ安価な、在宅でも利用可能な褥瘡予防システムが実現可能である点である。本研究で製作した多層化した導電性編物製敷布によって寝床内の体圧、温度、湿度分布が簡便に計測可能となり、褥瘡の発症や進行の予兆が、在宅や遠隔地でも容易に検知可能となるとことで、在宅介護における寝たきりの高齢者や要介護者の褥瘡予防に貢献できることは、高齢化社会において大きな意義をもつ。 本研究では、具体的には、寝床内の各種計測を行うための導電性編物製敷布の素材開発、同敷布の多層化による計測性能の改善、計測結果を用いた褥瘡予防システムの開発を行う。今回、褥瘡予防用に、新たな導電繊維として銀メッキ繊維を用いた皮膚刺激性の少ない編物を製作する。また敷布について、これまで測定セル間に絶縁部が無く、隣接セルの影響を避けるためにセルサイズが大きく、計測点数も不十分であった。本研究では絶縁部と導電性部を交互に編み込んだ敷布を、90度ずらして多層化することで、測定セルを微細化した敷布を製作する。また同時に絶縁部に導電糸導線を縫い込み、マトリクススキャンにより列セルを同時計測することで配線の省略化をはかる。導電性編物は圧力以外に温度や湿度変化によっても導電性が変化する。この特性を利用して、褥瘡要因となる接触部温度および皮膚湿潤について体圧分布計測とは別層のシートで測定する。最後に、改善した敷布について、1)敷布素材の皮膚刺激性、2)敷布の計測特性、3)褥瘡予防システムとしての有効性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の遂行にあたり、褥瘡予防用に長期間使用しても安全な敷布素材の開発が必要となる。敷布素材の開発後、同素材による体圧、温度、湿度分布の計測のために、敷布の多層化と計測・通信システムの製作を行う。最後に開発システムが褥瘡予防に有効であるか多層化した敷布の計測特性の評価を行う。 平成29年度は敷布素材の開発および計測・通信システムの製作を行った。短繊維化した銀メッキ繊維をポリエステル繊維と混紡した糸により、皮膚刺激性の少ない安全な導電性編物の製作を試みた。導電糸の開発メーカーに依頼し、銀メッキ繊維の混紡比率を調整した2種類の混紡糸を作製した。これにより、導電性の高い糸による編地を配線部として、半導体的な特性の比較的導電性の低い編地をセンシング部分として利用できることになり、より実用的な計測敷布の製作が可能となった。現在、製作した糸を用いて、混紡糸と非導電性の紡績糸、配線用の編地を交互に編み込んだ編地の製作を行っているところである。従来の体圧分布による褥瘡予防に関する研究事例から、敷布の測定セルサイズ20mm×20mm、各セルの体圧測定範囲0~200mmHgを達成目標としたが、省配線のための導電層の編み込みなどを考慮して、40mm×40mmのセルサイズの敷布を先行して試作し、現在これを用いて計測・通信システムの開発を行っている。編地は多層化して敷布を製作しており、上層セルは列セル、下層セルは行セルを直列配線した。交差した導電性編物部分が測定セルとなり、行セル上流の電源を切り替えて列方向の電気抵抗変化を計測するマトリクススキャンにより各セルの抵抗変化を求めている。測定結果はフィルタを通してコントローラから無線で携帯端末に送信し、ネットワーク経由で別端末へ通知する。現在フィルタ回路の製作、通信システムの開発、携帯端末での計測結果の確認ソフトの開発が終了している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,多層化した敷布の体圧分布計測結果をまとめ、褥瘡予防研究で主に使用される体圧センサマットによる結果と比較して、計測点数や領域、精度、レンジ、応答性等の計測特性について評価する。また温度、湿度変化に対する敷布電気抵抗の感度を実験的に求め、同式により寝床内、特に皮膚接触部の温度、湿度計測を行う。特に体圧計測精度は褥瘡予防に重要であるため、信頼性の高い体圧センサマットにより検証する。また実際の測定では体圧分布、温度・湿度計測が同時に行われるため、各層の出力差を特徴量として計測結果の弁別を行う。この弁別精度についても明らかにする。また各計測特性について不十分な項目があった場合、再度敷布の素材開発に戻り、必要な計測特性を踏まえて繊維や編地を再調整する。また実際の褥瘡予防利用を考えて,敷布素材の皮膚刺激性について河合法および閉塞法により明らかにする。 平成31年度は,平成29年度に開発した計測結果を携帯端末で確認するソフトウェアに,総合的な褥瘡の発症・進行リスクを判定し、介護者に通知・警告を行う褥瘡予防システムを構築,導入する。開発した敷布及び見守りシステムを,高齢者、要介護者を対象とした実地検証を外部機関で行い、判定、検知性能を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に試作した糸について、電気抵抗値が当初想定していたより低く、計測に増幅回路が必要となった。そのため電気抵抗値を調整した新たな導電糸の開発を行った。糸の開発のため、導電糸メーカーとの打ち合わせを行い、新たに混紡率を80対20に変更した糸について別途開発、生産を依頼した。しかしながら、一からの生産となったため、糸に関する生産設備の調整準備期間が必要となった。そのため年度内の発注が難しく、開発および生産設備の準備状況を確認後に改めて糸の発注を平成30年度冒頭に行うことになり、当初計上していた糸の物品費(開発、生産費用を含む)について次年度使用額が生じた。なお、この糸に関する物品費はすでに発注済みであり、糸の納期もすでに確定している。
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