研究課題/領域番号 |
17K01606
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研究機関 | 和歌山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
津田 尚明 和歌山工業高等専門学校, 知能機械工学科, 准教授 (40409793)
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研究分担者 |
多羅尾 進 東京工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (80300515)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 福祉工学 / 松葉杖歩行訓練器 / 身体加速度 / 転倒覚 |
研究実績の概要 |
本研究では,急に松葉杖を使用することになった,すなわち松葉杖の初心者のための歩行訓練装置を開発する.松葉杖を使い始めたばかりの患者がその使い方をよく知らずに使うと,不慣れなために使い方を誤り,その結果,転倒のような二次的な事故を起こす恐れがある.もし,松葉杖の使い始めの段階で使い方のノウハウを知ることができる訓練装置があれば,事故の可能性を減少できると考えられる. 本研究で開発する訓練装置は,主として患者の頭部に取り付けるHMD(Head Mount Display),腕と脚に取り付けるTPD(Tactile Presentation Display),松葉杖に取り付けるFSD(Falling Sensation Display)から構成される.それぞれの装置は,使用者の視覚,触覚,および「転倒覚(転倒しそうになる感覚)」を刺激する.特にFSD は松葉杖のバランスを意図的に崩すために本計画で開発するもので,人間の「ヒヤリ・ハット」する感覚である「転倒覚」を誘発する本研究の核となる要素技術である.訓練の中で「転倒覚」を感じてそれに対応する経験をしておくことで,実際の松葉杖歩行中に転倒しそうになっても対応できる可能性があると期待する. 平成29年度は,上述の「転倒覚」を提示するFSDを設計し,その動力学モデル(運動方程式)を導出した.松葉杖の傾き角度は,FSDの回転トルクを入力とする不安定な二次遅れ系で表されること,言い換えれば,FSDを駆動することで松葉杖のバランスを意図的に崩せることが分かった. 平成30年度は,前年度までに作成した動力学モデルを元にFSDの最適設計値を探求した.具体的に「転倒覚」の提示に効果的なFSDの質量,FSDの回転トルク,FSDの取り付け位置を検討し,実際に試作した.これを用いて実験した結果,理論通り松葉杖のバランスを崩せることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度はFSD(Falling Sensation Display)の設計とシミュレーション実験を行った.具体的には,まず,開発する装置の構成部品,すなわち松葉杖に加えてFSD,モータなどの質量や大きさといったシミュレーションに必要なパラメータを定義し,全体の質量や慣性モーメントを算出した.そして,実際に松葉杖に外力が加わった状況を想定して,松葉杖の転倒運動をシミュレーションした.この段階では,実際の松葉杖を使った検証実験も行った.検証実験では,松葉杖を直立させ,錘を使って水平方向にステップ状の力で引っ張って松葉杖が転倒する様子をジャイロセンサを使って計測し,先のシミュレーション実験の結果と比較した.その結果,シミュレーション実験と簡易的な実機実験の結果が同じ傾向であることがわかり,導出した松葉杖の動力学モデルが装置の動特性を表していて,その後の設計開発に有用であることが確認できた. 平成30年度は,それまでに作成した動力学モデルを元にFSDの各パラメータの最適値をシミュレーションで探求し,それらを用いてFSDの実機を試作した.被験者を募って実験したところ,装置が動作することは確認できたが,アンケート調査の結果,必ずしもすべての被験者が「転倒覚」を感じられなかった.理論的に導出した最適値と実用的な観点での最適値に違いがあることが原因であると考えられる.現在はこの問題への対処法を検討していて,当初の計画から少し遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
まずは,試作したFSD(Falling Sensation Display)の提示できる「転倒覚」の大きさが小さいという問題の解決を目指す.多くの被験者が「転倒覚」を感じられるような十分な大きさの「転倒覚」を提示するために,これまで実施してきたシミュレーションをさらに続けて,より効果的なFSDを設計・製作する.完成した後は,再び被験者を募っての評価実験を通し,実用的な観点から再度検証する. その後は,松葉杖使用者に視覚的に情報提示するHMD(Head Mount Display)と触覚的に情報提示するTPD(Tactile Presentation Display)を開発する.HMDは,歩行訓練中の患者が使用して,実際には存在しない歩行路上の障害物を視覚的に認知して,障害物がある想定でそれを避けながら歩行する訓練の実現を支援するものである.TPDは,患者が装着して,実際には存在しない障害物との接触を触覚で再現して,接触が起きる想定でそのようなときに転倒を防ぎながら歩行する訓練の実現を支援するものである.これらHMDとTPDと,先に開発するFSDを統合的に使うことで,転倒しそうに感じながらの松葉杖歩行を訓練できるAR(拡張現実)空間の構築をめざす.そして,最終年度に予定していたシステム全体としての検証実験を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で開発するシステムは,患者の頭部に取り付けるHMD(Head Mount Display),腕と脚に取り付けるTPD(Tactile Presentation Display),松葉杖に取り付けるFSD(Falling Sensation Display)から構成される.当初の計画では,平成30年度までにこれら3つの要素技術の開発を終え,最終年度は1つのシステムとして統合する計画であった. 特にFSDの開発にあたっては,まず最適な仕様を決定するためにシミュレーションを行い,その結果をもとに設計した.続いて,その設計に基づいて実機を試作して評価実験したところ,シミュレーションどおりの効果を体感的に得ることはできなかった.計算上は十分でも,被験者によっては,個々の感覚の違いから感じ方が異なるためだと考えられる.そのために,現在は装置の仕様を再検討中である.したがって,試作機製作段階で当初の計画より遅れが生じているために,次年度使用額が生じている.
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