研究実績の概要 |
認知症を有する人口は2012年時点で約462万人を越え(厚生労働省, 2015)、高齢者人口の増加に伴う罹患者の増加が予想されている。認知症の危険因子としては、転倒以外にも、日常生活における不活動(inactivity)が指摘され、運動や日常生活での活動者は不活動者より、認知症発症のリスクが軽減することや、活動状況は高齢期におけるMCIから正常への回復とも関係することが報告されている。 日常生活での活動は様々な形態があり、先行研究によると、身体活動のみならず知的活動や、社会との関わり(social engagement)がMCI高齢者の認知症抑制に効果的である可能性が示されている。日常活動の身体、知的、社会活動のパターンは年代によって異なる可能性が高く、加齢に伴う脳萎縮に活動実施がどのような影響を及ぼすかについて、科学的根拠は乏しい。本年度では、日常生活における戸外活動(身体・知的・社会活動)を聴取し、Voxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer's Disease(VSRAD)による脳萎縮程度との関係を明らかにするとともに、加齢に伴う変化について検討することとした。本研究は、国立長寿医療研究センターが実施するコホート研究(NCGG-SGS)に参加した地域在住高齢者4,195名のうち、MRI(3.0T)検査に参加し、選定基準を満たした1,125名を分析対象とした(平均年齢70.2 ± 6.4歳, 男性51.4%)。分析の結果、萎縮あり群は13.0%であった。60歳代の場合、萎縮あり群は萎縮なし群に比べて、知的活動の参加が高いほど、脳の萎縮リスクが低かった(オッズ比0.71, 95%信頼区間0.56-0.90)。70歳代、80歳代では有意差は認められなかった。60歳代において、知的活動の実施状況と脳の萎縮と有意な関連が見られ、多様な知的活動ヘの参加が脳萎縮防止に有効である可能性が示唆された。
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