近年の研究により、人間の脳内には様々なネットワークが存在することがわかってきた。その中でも、「顕著性ネットワーク」と呼ばれる神経ネットワークが人 間の「安静状態」と「活動状態」を切り替える役割をしており、この切り替えが不調をきたすと、うつ病や統合失調症になることが分かってきている。さらに この顕著性ネットワークは、身体の状態の影響(内受容感覚)を強く受けることもわかってきた。 そこで本研究では、運動経験の有無によって顕著性ネットワー クの働きに差があるのかを検討し、顕著性ネットワ ークから脳の他の領域(活動状態時に賦活する実行系ネットワーク、安静状態時に賦活するデフォルトモード ネ ットワーク、その他の脳領域)への働きかけ(切り替え)に運動経験の有無が影響を与えるか否かを明らかにすることを目的とした。 研究の最終年度にあたる令和元年の研究においては、得られたfMRIのデータを用いてネットワーク解析を行い、運動経験との関連性を検討した。ネットワーク解析では、gPPI(Gengralized Psychophysiological Interaction)解析と呼ばれる手法を用いて分析を行った。その結果、顕著性ネットワークの中心領域である左前島皮質に運動経験(年数)との弱い負の相関が観察されたが有意ではなかった。一方、運動経験により体積が変化すると言われている尾状核の活動において、運動経験との有意な負の相関が観察された。尾状核は右前部島皮質とも高い正の相関が認められた。そのため、尾状核を従属変数、運動経験(年数)と右前部島皮質の活動を独立変数とした重回帰分析を行ったところ、統計的に有意な重回帰モデルとなった。 以上のことより、運動経験は、島皮質などのネットワークの切り替え中枢に直接的に影響を与えるのではなく、島皮質の投射先となる脳領域に影響を与えることが示唆された。
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