これまでのMRI実験により、成人の高次視覚野(下側頭回:ITG)には、自己顔を専門的に処理する視覚領域が右半球に偏って存在していること、その一方で小学生にはこうした自己顔領域がまだ形成されていないことを明らかにしてきた。2019年度は、自己顔領域がいつ、どのように形成されるのかを明らかにするために、中学生(12-15歳)を対象に、同じ課題を用いてMRIによる脳計測実験をおこなった。その結果、中学生でも右ITG領域内に自己顔領域の存在は認められないことが分かった。さらに、自己顔あるいは他者顔に対する右ITG領域の活動の発達的変化を詳細に調べた。小学生ではいずれの顔に対してもその活動は非常に弱く、中学生になると活動レベルが増加し、自己顔、他者顔の両方に対して一定レベルの活動を示すようになった。ところが、成人では他者顔に対する活動はなくなり、自己顔に対する活動のみが見られた。これらの結果から、約10年以上かけていったん獲得された他者顔に対する右ITG領域の反応が10代後半以降に減弱または消失することによって、自己顔に対する選択性な反応が獲得されるという発達過程が見えてきた。先行研究では、自己身体の多感覚情報処理に関与する右半球下前頭-頭頂ネットワークが中学生頃に成人様に機能し始めることを示したが、自己顔(身体)処理に特化した視覚領野が形成されるのは、それよりもさらに遅い時期である可能性を示唆する。
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