研究課題/領域番号 |
17K01625
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐野 淳 筑波大学, 体育系, 教授 (50178802)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 技術指導 / 促発言語 / 言語表現 / 意味論的構造 / 語用論的構造 / 発生運動学 |
研究実績の概要 |
スポーツの技術指導で重要なことは、指導者が学習者の発話することば(創発言語)や表現から、学習者がとらえている動きかたの意味を理解し、指導者はその上で動き方(やり方)に関してことばを通して学習者を指導していこうとすることである。 本研究は、このような認識に基づいて、技術指導の際の動き方(やり方)に関わる指導者の言語使用の仕方(促発言語の表現構造)を、発生運動学的立場に立ちつつ言語学的視点から明らかにしていこうとするものである。 指導者がコツ指導時に、例えば「腰をかぶせるように!」と言った場合、そのことば(促発言語)には指導者の中に生じている動きかたの意味が付与されているはずであるし、あるいは、指導者が発する技術指導上のことばは、その背景で自身の体験や意識、動感、指導者がとらえた動きの意味と直接結びついていて、直接的また間接的に、学習者が運動する際に意識しておくべき、感じておくべき、また注意しておくべき重要な動感内容をとらえていなければならない。 こうした考えに従えば、この指導者が語ることばの構造解明は、少なくとも、学習者が良い動きかたを目指して意識したり、また注意すべきポイントがどこにどのようにして存在するのかの解明を意味している。このような研究では、言語学的、現象学的、発生運動学的観点からの厳密な分析が必要になる。本研究はこうした考え方から取り組まれた研究である。 本研究では、全期間を通じて、スポーツの技術書および言語学の関連文献の調査研究による技術指導時の言語表現の理論的な分析、またスポーツの技術指導書に記載されている運動実施上の注意点の内容とその表現の仕方の分析、さらに実際の運動の専門家との意見交換による促発指導時の表現の仕方の収集・分析を行う予定である。本研究の最初の当該年度(平成29年度)では、言語学関連の文献調査、内容整理、および指導者の発話内容の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、指導者の技術指導時に発することばや言語表現の、学習者の運動発生に寄与しうる効果を明らかにするものであり、基本的に、言語学の関連文献において、言いたい内容と言語表現の関係構造を明らかにしておくことが前提になっている。この場合、とくに、発話の意味論的構造と語用論的構造のそれぞれに目を向けて、技術指導時のそれらの表現上の特徴を整理することが重要になる。ただ、現場の指導者の発話では、意味論的用法よりも語用論的用法の方がかなり使われていると思われる。その意味でも本調査・分析作業、整理では、指導者の発話の語用論的構造に関して力を入れようと考えている。 本研究では、言語学関連の文献を収集し、その内容の調査と分析作業、整理を平成31年まで継続して行う予定である。なお、平成29年度の計画は、その起点となる言語表現の意味論的構造に関しての基本的内容のまとめであったが、若干遅れているとは言え、おおむね順調であると言える。 また、指導者のことばがけや言語表現の仕方について文献調査を行うとともに、現場において具体的に言われる内容の収集・整理、つまり実際に現場に出向いての指導者による言葉がけや言語使用の具体的内容を収集整理することも、平成29年度の取り組み内容であった。これに関しても、十分な整理とは言えないが、概ね、順調であると言える。 さらに、言語指示等に関する文献に関しては、日本語以外では、とくにドイツ語圏や英語圏で出版されているスポーツ指導に関する図書(技術書や指導書)や研究論文などを可能な限り調査・分析する予定であるが(平成31年まで継続)、初年度(平成29年度)の調査・分析としては、若干、不十分であったと言える。ただ、言語表現の構造に資する情報収集としての、指導者の言葉がけや言語使用の仕方に関する他大学の指導者への聞き取り調査(意見交換)に関してはある程度行えたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の平成29年度の計画としては、不十分なところもあったが、概ね順調な取り組みであったので、このまま資料収集、分析、整理を行っていく予定である。すなわち、言語学関連および運動指導に関わるポイントの指導の仕方や言語表現に関する文献収集、およびその内容分析と整理、また専門家との意見交換による情報収集である。なお言語学関連では、言語表現の意味論的構造の内容の整理に加えて、言語表現の語用論的構造の内容把握に着手し、言語表現時の語用論の基本的な構造をまとめたいと考えている。また、学習者がどの運動のどのような動作状態のときに、指導者がどのような言葉を使って、どのような点を強調して指導すべきなのかという内容についても、文献調査して理論的に考察したいと考えている。 また、運動の専門家との意見交換では、例えば、体操競技でのひねり宙返りのような非日常的な複雑な感覚に言及するような場合の言語表現の特徴、また走るフォームの指導などの日常的な感覚をベースに指導される場合の言語表現の特徴など、可能な限り具体的な内容を取り出すこと、またカンを働かせることの鋭い学習者に対する言語表現や指導者の説明に対してなかなかイメージ形成できない学習者に対する言語表現の特徴についても調査していきたいと考えている。
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