スポーツにおいて技術指導は実際のところきわめて複雑な指導者の学習者への働きかけ行為であり、通常、ことばを使用して行われる。指導場面では、指導者のことばの使い方や言語表現の違いによって、学習者のイメージの描きかたや学習者の可能性としての「できる世界」は大きく変わるものである。本研究は、スポーツの運動指導場面において学習者に対して投げかける指導者の技術に関わる言葉や表現法(例えば、わざ言語や運動の技術言語など)がその効果を発揮し、学習者の学習活動に有効に機能し学習効果をもたらすように、スポーツ運動学の立場から促発言語あるいは促発表現の構造解明を目指して、平成29年から取り組んできた研究である。平成31年あるいは令和元年度は、研究当初から行っている言語学および運動の技術指導における動き方の考え方や促発言語による表現の仕方に関する文献の収集、およびその内容の分析とまとめ・整理、他大学のスポーツ種目の専門家との意見交換による情報収集については引き続き可能な限り行うようにした。 その結果、技術指導時における言語表現あるいは助言の仕方にいくつかパターンがあることが分かった。例えば、技術指導に際して、学習者に対して欠点を指摘して修正を図っていく場合の<言語表現>、技術的側面から学習者の個性を伸ばしていくときのアドバイスの内容とその言語表現、学習者が自分の動きがよく分からなくてなかなかイメージが沸かないときの学習者への<助言の言い方>、あるいはまた、指導者が良いと感じている動きのリズムを学習者に伝えたいような場合の<言い方>、動き全体の修正を図りたいときの言い方や身体四肢の部分的動作に目を向けて修正をしようとするときの<言語表現の仕方>等である。これらの整理・分析を通して本研究で重要だと思われたことは、技術指導の指導者の促発表現は、多分に語用論的構造をもつことが指摘される、ということである。
|