研究課題/領域番号 |
17K01627
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
佐藤 善人 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (20534663)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 運動遊び / 体つくり運動 / ポジティブ感情 / 心理社会面の強化 / 自然災害 |
研究実績の概要 |
日本は自然災害が多い土地柄であり、ひとたび大きな自然災害が発生すると、子どもの身体活動は制限される。身体活動が制限されることにより、子どもの体力・運動能力の低下はもとより、様々なストレス反応(ASD,PTSD)が表出する。自然災害による環境の変化は、子どもの発育発達にマイナスの影響を及ぼすと言える。 本研究では自然災害後に運動・スポーツの実施が制限される小学校において、器具用具を用いることなく実施でき、身体面・心理面の発育発達への効果が大きく期待される「運動遊び」のプログラムを開発することを目的とした。2016年4月に発生した熊本地震で甚大な被害を受けたH小学校に協力を仰ぎ、2017年11月にスキンシップや交流を重視した体ほぐしの運動の実践を一単元3時間行った。特に心理社会面の強化を意図して研究を進めた。 効果測定は橋本ほか(2011)が開発した改訂版ポジティブ感情尺度を用い、毎授業の導入時と終末時に質問紙調査を実施した。第1時の導入時と第3時の終末時でt検定を行った結果、ポジティブ感情のうち、快感情は有意に向上し、不安感は有意に低下した。そのため、今回の実践は、ストレスを抱えた子どものポジティブ感情を向上させる可能性が示された。3つの項目とも12点満点であるが、単元を通じて快感情は6点前後、リラックス感は5点前後で推移しており、震災後1年半が経過した今なお、被災した子どものポジティブ感情は低い傾向があることがうかがえた。 今回は1単元3時間という短期間の実践であったため、長期間スキンシップや交流を重視した運動遊びを実践することで、子どものポジティブ感情にどのような改善が見られるかを調査することが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、熊本での実践協力が難しい状況になったが、粘り強い交渉により、11月にH小学校の協力を仰ぐことができた。実践の打ち合わせ、研究代表者による模擬授業の実施など、可能な限り実践方法の共有化を図った。最終的には4つの学級に体ほぐしの運動の実践をお願いすることができた。研究成果については、1月にH小学校に赴き、直接報告した。30年度も協力していただける方向である。 なお、交渉の過程で熊本市内の3つの小学校で、体つくり運動としてジョギングの実践を実施してもらうことができた。ここでもポジティブ感情が向上することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は熊本で引き続き、実践をする予定である。しかし、熊本では様々な研究協力依頼があり、学校・先生は多忙であると教育委員会から情報を得ている。今年度は東京都や岐阜県を中心にして、運動遊びが子どものポジティブ感情にどのように影響するのかを調査する。短期間の体ほぐしの運動だけでなく、中・長期的な体育授業の導入時での運動遊びの実践、休み時間における実践など、多角的な実践により、子どもの変容を捉えたいと考えている。 なお、29年度の研究成果は第69回日本体育学会(8月,徳島大学)で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度は、大学図書で先行研究の検討を進めたため、書籍の購入が少なかった。また学生アルバイト費用も予定より少なかった。そのため、残金が17万円ほど発生した。30年度は、試験的実践から得た成果をベースに、本格的に教育現場で実践することになる。そのため、打ち合わせや授業参観、データ取得のために実践先である、熊本と岐阜への出張が多くなると思われるため、そこで支出予定である。また、先行研究に関する書籍を購入していく予定である。
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