研究課題/領域番号 |
17K01635
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
藤永 博 和歌山大学, 経済学部, 教授 (20238596)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 野外教育 / 教養教育 / 沿岸域総合管理 / 順応的ガバナンス / 環境創造 / 自然共生社会 / 市民教育 / 市民科学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、沿岸域の「総合管理」と「環境創造」の推進の原動力となる市民的教養を培う野外教育の新機軸を開拓することである。具体的には、自然豊かな和歌山県沿岸域の環境保全と利用につながるプログラムを開発する過程で、大学における新しい教養野外教育のミッションの定義づけ、教育コンテンツの作成、方法論の確立等を目指す。平成29年度の研究実績は次のとおり。 1.ミッションの定義づけのための理論研究 研究成果の一部を論文『豊かな自然に恵まれた和歌山県での地方創生―「環境・生命文化社会の実現に向けて―」』(21世紀WAKAYAMA Vol.87 和歌山社会経済研究所)にまとめた。沿岸域の総合管理は、「自然環境や利用競合などの問題に多様な関係者が参加して、計画的・順応的に取り組むこと」を意味する。また、環境創造の主目標となる自然は、人間の生産や生活と共存する自然生態系である。こうした考え方のもと、「順応的ガバナンス」「自然共生社会」などをキーワードとする教養野外教育とその効果としての地方創生の可能性について検討した。沿岸域は人間社会の営みにとって重要な地域であるため、多様な当事者が総合的かつ順応的な「柔らかい管理」を行う必要がある。そうした管理を仲間とともに実践できる「市民」を育成するのが新しい教養野外教育の「ミッション」である。 2.プログラム開発に向けた企画調査および教育コンテンツの作成 リーフチェック(サンゴ群生の調査)(白浜町、みなべ町、串本町)、ウミガメの保護活動(磯ノ浦海水浴場)、自然水族館(「浪早ビーチ創造授業」)(浪早ビーチ)の企画がまとまった。平成30年度の試行に向け、サンゴ群生の調査マニュアルおよび追体験用のDVD、市民科学ダイバー育成のためのDVD教材などをNPO法人・自然体験学習支援センター、NPO法人・海と自然の体験学習協会にそれぞれ委託して作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を達成するため、大きく分けて次の5つのプロジェクトを実施している。①大学の教養教育における野外教育の「ミッション再定義」 ②「沿岸域総合管理」「環境創造」の考え方に立脚した野外教育コア科目の開発 ③和歌山県沿岸域(吉野熊野国立公園など)での学生主体の野外実習の実施体制整備 ④計画的・追体験的体験学習を可能にする教育コンテンツの開発 ⑤学習成果を評価するためのツール(ルーブリック等)の開発。 平成29年度はプロジェクト①、②、③、④に着手し、おおむね順調に進んでいる。①については、新しい教養野外教育が目的とする人材育成の観点から「ミッション」を定義した。②については、「浪早ビーチ創造授業」などの企画がまとまり、平成30年度に試行することになった。③については、環境省田辺自然保護官事務所や自治体、地元の団体と連携して実施体制の整備に着手している、④については、サンゴ群生の調査マニュアルおよび追体験用のDVD、市民科学ダイバー育成のためのDVD教材を、NPO法人・自然体験学習支援センター、NPO法人・海と自然の体験学習協会にそれぞれ委託して作成した。
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今後の研究の推進方策 |
沿岸域は人々の居住、漁業、海上交通、農耕、商工業などの人間社会の営みにとって重要な地域である。そのため、沿岸の陸域と海域を一体として捉え、その環境保全と開発利用(環境創造)に向けて、多様な当事者が総合的かつ順応的な「柔らかい管理」を行う必要がある。そうした管理を仲間とともに実践できる「市民」を育成するのが本事業が目指す教養野外教育の「ミッション」である。今後は、平成29年度に作成した教育コンテンツを利用して沿岸域での体験型授業を実施しながら、受講生からのフィードバックをもとに、「体験」を主体的・協働的な「実践」へ繋げることを促す教育プログラムの開発と実施体制の構築を目指す。 平成29年度に企画・立案したプログラムは次のとおり。①環境省田辺自然保護官事務所やNPO法人等と協力してサンゴ群生の保全と利用を推進する「市民科学調査ダイバー」育成プログラム ②和歌山市やNPO法人等との連携による浪早ビーチ(和歌山市)環境創造プログラム ③和歌山県や現地の一般社団法人・マリンパーク磯の浦等との連携による磯の浦沿岸域(和歌山市)でのウミガメ保護活動プログラム。今後、関係自治体や団体と協力して、各プログラムの実施体制を整備していくとともに、他の沿岸域のニーズについても調査を行う。また、プログラム用のテキスト・教育コンテンツや学習効果を把握するツールを作成するための理論研究を引き続き実施する。
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