伝統芸能5ジャンル7種類のトップレベルの実演家14名を対象に、次の2つの目標を目指して研究を進めた。第一目標:各芸能別に習得すべき「身体の芯や軸」と表現される技を、熟達者による身体の注目部位に関する視線測定、筋骨格モデルによる技の再現によって実証的に解明する。第二目標:実演家の技と伝承者の言葉を動画で記録し、動作作品(テロップは日本語版と英語版の2種類)を作成し、一部を一般公開する。DVD付き書籍にまとめて出版する/技と言葉の映像撮影(第一段階)、動画編集を行い公開(第二段階)、聞き取り調査及び実証的な調査結果を含めて書籍(DVD付き)にまとめて出版(第三段階)。成果は次のとおりである。 第一目標では、「芯・軸」とは熟達者が内省的に理解する「型の身体」と呼ばれる規範とされる状態に近づくように、筋の剛性を変化させて「芯」の領域を変化・調節することで「軸」がぶれないように全身の運動の連動性を操作するメカニズムであることを明らかになった。また筋骨格モデルを拡張した連続体モデルによる技の解釈において力学的な矛盾が生じなかったことをもって、その存在の妥当性を示せた。この結果は、査読付き学術論文として比較舞踊学会『比較舞踊研究』に掲載決定となった。 第二目標については、書籍『ようこそ伝統芸能の世界 伝承者に聞く技と心』として薫風社から出版した。このとき、研究成果や実験風景、舞台映像、インタビューを収録した映像(日英テロップ付き)を作成し、短いバージョンはYouTubeで一般公開、長いバージョンはDVDに収録のうえで、書籍の付録とした。 上記の成果によって、本研究課題の申請書に記載した、①「身体の芯や軸」と表現される技を、実際の筋骨格のレベルから実証的に解明すること、②技の測定実験の様子や結果、実演家の芸や技に関する言葉を、動画作品および書籍として保存及び公開を行う、の2つの目的を達成できた。
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