暑熱環境や仰臥位から立位への姿勢変化は脳血流量を低下させる。また,加齢によって循環応答が減弱し,心拍出量や1 回拍出量は若年者より低くなる。したがって,暑熱と姿勢のストレスが組み合わさると,各々の負荷か軽度であっても高齢者では安静時脳血流量の低下が顕著になると考えられる。安静時の脳血流量の低下は認知活動に伴って生じる脳血流増加を抑制する。本研究では暑熱ストレス下の脳血流と,認知機能における加齢の影響を検討した。 若年者と高齢者各14名を対象に,水循環スーツと足浴で体温を1度上昇させ,平常体温時と軽度高体温時の体温調節応答,呼吸循環機能,脳血流量を測定した。認知機能の評価には聴覚オドボール課題を用い,課題中に特定の事象に関連して発生する脳波である事象関連電位(P300)を記録した。 平常体温および高体温の両条件でP300が記録できた若年者11名,高齢者7名について分析した。表面皮膚温度と心拍数は,若年者,高齢者ともに高体温時に増加した。平均動脈圧は平常体温より高体温時に高く,また,若年者より高齢者の方が高かった。脳血流の指標である脳血管コンダクタンスは,若年者では体温による違いは認められず,高齢者では例数が少なく明確にならなかった。音刺激に対する反応時間は,高体温によって若年者,高齢者ともに短縮し,加齢による影響は見られなかったが,p300の最大振幅は高齢者で増大し,加齢によって認知処理機能が低下する可能性が示された。 高齢者は若年者と比較して熱中症を発症しやすく,暑熱環境下においては,めまいや失神の発生が高くなる。暑熱環境下でも認知機能を維持し,正しい判断や行動を可能にすることは重要である。これらの結果は,暑熱環境下で高齢者に生じる事故防止に役立つ基礎データとなる。
|