研究実績の概要 |
本研究の目的は、準高地(標高1,000m程度)における空気抵抗低減がスプリント走パフォーマンスをアシストするかについて、最大スピードとスピード持続に焦点を当て、バイオメカニクス、生理学および心理学的観点から多面的に検討することである。課題1として、準高地と低地における100m全力疾走時の速度、ストライド、ピッチおよび主観について比較し、課題2として、準高地と低地における300m全力疾走と最大下疾走(低地での300m全力疾走の80%の走速度)におけるタイム、血中乳酸濃度、速度、ストライド、ピッチおよび主観について比較した。今年度は両課題についてより多くのデータから分析するために追加実験を行う予定であったが、コロナ禍の影響で追加実験が行えず、前年度までに行った追加実験のデータを分析し、これまでのデータに追加して再分析を行った。課題1については、実測記録、風速を補正した記録のいずれも準高地と低地との間で有意な差は認められなかったが、最高速度到達距離が準高地において有意に短いという結果が得られた。課題2においては、準高地と低地の300m全力疾走について疾走タイム、血中乳酸濃度および主観について有意な違いは認められなかったが、準高地の方が低地と比較して前半に有意に高い速度が発揮される分、後半の失速も有意に大きくなり、このことについて前半は高いピッチが、後半は小さいストライドが要因となっていることが明らかとなった。また、全力疾走タイムと血中乳酸濃度との相関関係から、パフォーマンスと乳酸産生との関係について標高の影響に個人差が生じる可能性が推察された。さらに、最大下同一速度で疾走した場合、血中乳酸濃度は準高地において低い傾向を示した。これらの知見は、準高地における最大スピード改善やスピード持続能力改善を目指したトレーニングの効果的な実践に役立つ可能性があり、より詳細に検討していく。
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