近年、スポーツやトレーニングの現場では、体幹の重要性が指摘されている.それは、四肢を動かす主働筋が体幹に位置しているという解剖学的な指摘からである.しかし、実際の動作局面での体幹の働きのメカニズムについて、客観的に解析されているわけではなかった.そこで、本研究では、これまでスプリント走のスタートおよび中間疾走のスピードを変えた場合の体幹の動きをモーションキャプチャとフォースプレートを用い、逆ダイナミクスを用いて実験解析してきた.バイオメカニカルなモデルは、体幹を上胴と骨盤を分けた2セグメントとし、仮想のピンジョイント関節があると仮定したものである.本年度は、従来の直線走に加えて、方向転換走つまり90度のサイドステップ動作を対象に、10名の男子大学生に対して、3次元動作解析を行った.その結果、着地初期に胸部が骨盤に先取りして目的の移動方向に回転していた(体幹の軸回転は21.0±6.0°で最大).腰仙部の軸の回転トルクは、立脚初期の段階で目的方向に作用し、その後、立脚後期および空中局面で逆になり、体幹の軸回転速度の増減と一致していた.また、立脚初期局面では、骨盤回転の腰仙軸方向の回転トルク由来の要因(0.074±0.033 Nms/kg)は、他の要因よりも大きいことが示された.加えて、立脚後期および空中局面では、腰仙軸回転トルクが主に骨盤を回転させていた.以上より、体幹の軸の回転トルクが、体幹の動きを最小化するのではなく、体幹の軸回転を積極的に誘発するために発揮されるということが示された.
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