研究課題/領域番号 |
17K01670
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
秋元 忍 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (50346847)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ホッケー / 女性スポーツ / イギリス |
研究実績の概要 |
本研究では、1914年以前のイギリスにおける女性のホッケーのゲーム普及過程について、1)組織化以前のゲームの実施状況、2)女性単独の統括組織の設立、3)組織化以降のゲーム普及過程、の3課題を設定し、検討を行ってきた。本年度は、女性のゲームの普及に伴い、その技術、戦術がいかに語られ、継承されたのかについて、男性のゲームの技術、戦術の変化とあわせて検討を行った。1890年の初版出版以降、1900年、1906年、1909年に三度改訂され、出版が継続された、フランク・S・クレスウェル著『ホッケー』という著書を主要史料として分析した結果、以下の点が明らかになった。本書は、男性のゲームの統括組織、ホッケーアソシエーションの著名な役員による、廉価なゲームの概説書であり、男性のゲームに関する記述が中心となっており、初版には女性のゲームに関する言及は見られなかった。1900年の新版以降、本書は女性の読者を想定し、女性のホッケーに関する一章を含むようになった。新版のこの章の冒頭では、スティック、スカート、シャツ、帽子などの装具選びの留意点の解説が続いていた。また女性のゲームに固有の技術論として、ロングスカートを使ってボールを止める技術について、以下の見解が示された。スカートには、ボールを止めることに利用できるという利点がある。それは安全な止め方であり、ルール違反ではないが、エレガントなものとは言い難く、スカートのひだでボールを見失うことになりやすい。スカートに頼ってボールを止めることをあまり頻繁にしないプレーヤーの方が優れたプレーヤーである。1909年の再改定版にもこれらの記述は継承された。ホッケーの普及期に改訂が繰り返された本書には、男性のゲームだけでなく、女性のゲームの普及に伴う、独自の技術、戦術論の深化を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響により、当初計画していた、イギリス現地における史料調査、収集を実施することはできなかった。そこで計画を変更し、統括組織設立後の女性のホッケーのゲームが、いかなる技術、戦術論を伴って普及したのかについて明らかにすることを課題として研究を進め、一定の成果を得ることができた。当初計画には含まれていない観点であったが、この成果により、女性のホッケーの普及の多様性に、新たな説明を加えることができた。よって、(2)おおむね順調に進展している、と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において詳細な活動実態を解明したガートンカレッジ、ロイヤルホロウェイカレッジのほかにも、ニューナムカレッジ、ウィンブルドンスクールなど、1890年代前半以降の活動実態を1次史料から再構成できる可能性のある女性ホッケークラブが存在する。最終年度は、可能であれば、イギリス現地における史料調査を実施し、これらのクラブの1914年までの活動実態を解明し、本研究の3つの課題についての結果を再検討する。そして、これまでの研究成果と合わせて女性のホッケーの普及に関する歴史像を提示し、近代スポーツの普及に関する従来の学説の中に位置づけ評価することによって、総括を行う。史料調査が実施できない場合には、収集済みのホッケー関連雑誌の記事分析によって代替し、上記の目的を達成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
1914年以前のイギリスにおける女性のホッケーのゲーム普及過程について、1)組織化以前のゲームの実施状況、2)女性単独の統括組織の設立、3)組織化以降のゲーム普及過程、の3課題を設定し、検討を行った。各課題について一定の成果を得たが、女性のホッケーの実施基盤はこれまで認識されていた以上に多様であることが明らかになったため、より精緻にイギリス現地における史料調査を追加実施する必要があると判断し、1年間の事業延長を申請した。しかし今年度はコロナ禍の影響で史料調査を実施することができなかったため、再延長を申請した。最終年度の使用計画は以下の通りである。史料調査のためのイギリス研修旅行のための旅費20万円、史料複写、図書(古書含む)購入のための物品費5万円、投稿時英文校正のためのその他2万円。
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