研究課題/領域番号 |
17K01677
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研究機関 | 札幌大学 |
研究代表者 |
金 誠 札幌大学, 地域共創学群, 教授 (40453245)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植民地朝鮮 / 総力戦 / 身体 |
研究実績の概要 |
令和元年度は文献資料調査を国内で行うとともに、ソウルの国立中央図書館でも資料の収集を行った。またこれまでの研究成果の一部を「総力戦体制における人的資源としての朝鮮民衆ースポーツの否定と兵的動員の正当化へー」という研究論文にまとめ、『民衆史研究』第98号に投稿した。 国内外の資料調査では朝鮮体力令に関する記事、並びに朝鮮人志願兵が訓練を行なった陸軍兵志願者訓練所に関する記事や関連論文などを収集し、特に後者の資料は論文を記述する際に参考資料とした。 「総力戦体制における人的資源としての朝鮮民衆ースポーツの否定と兵的動員の正当化へー」では1930年代から1940年代の植民地朝鮮における総力戦体制への移行期に着目し、オリンピックなどで活躍する朝鮮人選手のスポーツする身体という視点から、銃後の社会において必要とされる戦力としての身体へと関心・観点へが変化していった点をいくつかの事例から確認した。スポーツ選手の身体は朝鮮民族の民族意識を高める身体として注目されてもいたのであり、やがて孫基禎のような金メダリストが現れるとスポーツする身体は植民地権力側にとっては警戒の対象となる身体となった。一方で志願兵の身体、とりわけ志願兵として最初に死を迎えた李仁錫の身体は植民地朝鮮においてプロパガンダされる身体として存在していた。植民地朝鮮における総力戦体制の身体管理のなかで戦力として死した身体こそが植民地権力側が被支配民族に対して期待するロールモデルとしての身体となったのであった。ゆえにスポーツする身体では否定され、死する志願兵の身体こそが為政者に望まれ、人的資源としての朝鮮人の存在が正当化されることにもなったのである。 最終年度はこの人的資源としての朝鮮人の身体がアジア太平洋戦争の末期にどのように扱われようとしたのかに着目して研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の植民地朝鮮における娯楽に関わる論文の記述に続き、当該年度も志願兵の身体に着目した研究論文をまとめることができたという点で当該研究課題はある程度良好に進められていると言える。ただ最終年度を迎えるにあたり、最も重要となる朝鮮体力令については研究論文をまとめるだけの分量に達していないため、文献や各種資料の収集がさらに必要となっている。資料調査の行いにくい社会状況ではあるが、国内での関連資料の収集に着手したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況についてでも述べたが、今年度は当該研究課題遂行の最終年度となっており、具体的には朝鮮体力令についての研究を進めていく。現時点で研究論文をまとめるだけの資料の量に達していないため、さらなる資料の調査が必要となる。現況では国外での文献史料調査はできないことが想定されるため、東京や京都の国会図書館や、神戸市中央図書館、また北海道内の図書館を中心に関連資料の収集に着手し、収集した資料整理を行うとともに、今年度、次年度にかけて国民体力法と朝鮮体力令を比較しながら研究論文としてまとめていく予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の科研費研究課題との兼ね合いにより、12月まで本研究課題に調査時間の多くを費やすことができず、年明けの2月と3月に予定していた海外への研究調査は新型コロナ・ウィルスの発生により、実行できなくなってしまったため多くの残額が生じた。今年度は国内を中心に資料調査を実行し、研究費を使用していく予定としている。
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