研究課題
昨年度,脳波電極の感覚運動野付近で計測されるμ波(8-13Hz)抑制により,身体所有感を生じた偽の手(他者の手)の運動観察中,感覚運動システムが活性する現象を発見した.しかしながら,μ波は後頭葉由来のα波(8-13Hz)の変化を反映している可能性も否定できない.そこで,本年度は昨年度と同じ実験システムを用い,偽の手と実際の手の視触覚刺激のタイミングを系統的に操作し,偽の手に対する身体所有感と偽の手の運動観察時の脳活動の関連性を詳細に検討した.実験者は被験者の手と偽の手を同時に撫でた.この時,偽の手のモニター映像に80ms,280ms,480msの時間遅延を挿入した.視触覚刺激中,モデルの手は時々大きく開いた.従来の報告通り,偽の手への身体所有感は遅延間隔の延長に伴って有意に低下した.全頭から記録された脳波データに対して,独立成分(IC)分析と独立成分クラスタリング解析を行った.その結果,10Hz周辺にパワーのピークを有するいくつかのクラスタが抽出された.右感覚運動クラスタで観察されたμ波抑制は,80ms条件が280msと480ms条件のよりも有意に大きかった.他方,頭頂葉クラスターの抑制は,480ms条件の方が80msと280ms条件よりも大きかった.これに対して,後頭クラスターで観察されたα波抑制では,条件間に有意差は認められなかった.本結果は,身体化,非身体化した偽の手の運動観察が,感覚運動野と頭頂葉の活性化を誘発することを示唆する.なお,本成果は,国際誌に投稿予定である.
2: おおむね順調に進展している
1. 脳波の実験システムの構築が出来ており,順調に実験が進行しているため2. 新たな脳波解析(独立成分分析クラスタリング法)の手法が適応できているため3.VRゴーグルを用いた,新たな実験システムの構築が進んでいるため4. 研究成果が査読付き国際誌に発表できているため
今後は,観察する偽の手の動きのタイプを変えて,感覚運動野の活性化を詳細に検討する予定である.また,VRゴーグルを用いた実験も同時に進める予定である.
旅費・人件費に関しては,他の助成金により支出出来たため,当初の予定額の使用が不必要であった.次年度の使用額は,主に新たな実験システムの構築のため物品費の購入を中心に支出する予定である.加えて,旅費・人件費,論文掲載費にも支出する計画である.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件)
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