一昨年度(2017年度),昨年度(2018年度),脳波の感覚運動野領域で計測されるμ律動(8-13Hz)の抑制(脱同期)を指標として,身体所有感を生じた偽の手の動きの観察中(手の開閉運動),感覚運動システムが活性すること(Shibuya et al.2018; Neuropsychologia),この現象が同一帯域の後頭葉α律動の抑制とは独立していることを示してきた(Shibuya et al. 2019; Front Hum Neuroscience).
他方,ミラーシステム関連の脳波研究では,μ律動に加えてβ律動(15-25Hz)の抑制が運動観察中に生じることが報告されている.そこで最終年度では,提示する偽の手(ラバーハンド)の運動タイプを回転運動に変えて,その影響を調べた.実験者は被験者の実際の左手とターンテーブルに置かれたラバーハンド(偽の左手)を同時に撫でた.被験者はラバーハンドのビデオ映像をモニターを介して観察した.映像遅延により,同期条件と非同期条件(約1秒)が設定された.視触覚刺激中,ラバーハンドは時々30度時計回り(反時計回り)に回転した.この運動観察中に全頭から記録された脳波データに対して,独立成分(IC)分析と独立成分クラスタリング解析を行った.右感覚運動クラスタで観察されたμ抑制は,従来と同じく,同期条件(錯覚あり)の方が非同期条件(錯覚なし)より強かった.他方,β抑制は逆に非同期条件の方が同期条件よりも大きかった.本結果は,身体化した偽の手の運動観察は,感覚運動野のμ抑制とβ抑制に異なる影響を及ぼす可能性示唆する.なお,本成果は,国際誌に投稿予定である.
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