研究課題/領域番号 |
17K01692
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研究機関 | 日本体育大学 |
研究代表者 |
関根 正美 日本体育大学, 体育学部, 教授 (50294393)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オリンピック哲学 / 人間学 / より人間的に |
研究実績の概要 |
本研究のテーマであるオリンピックの臨床哲学が目指す地点は、現代オリンピックの抱える病理に対してそれをイデオロギー的に否定することでもなく、非現実的な理想のみを掲げるところにあるのでもない。従来のオリンピックモットーである「より速く、より高く、より強く」に新たに「より人間的に」という観点を加え、それを一つの哲学原理としてドーピングと商業主義に対する改善を目指すところにある。 29年度は本研究の中心概念である「より人間的に」の「人間らしさとは何か」を東西の人間観の検討から明らかにすることを実施計画とした。4月~7月は、「より人間的に」を新たなオリンピックモットーとして最初に提起したハンス・レンク博士の論文および著書を精査し、この考えが提起されたのはどの文献かを明らかにする作業を行った。その結果、2006年の東京での講演が最初の提案であるとの仮説をもつに至った。8月~2月にかけて、引き続きレンク博士の文献を精査すると共に、哲学的人間学に関する文献を中心に文献研究を行った。レンク博士の文献については、1985年および1987年の著作の中に「オリンピックの人間化」に関する記述が有り、それが単に理念的なものにとどまらず、生物学的な基礎づけを主張している点を確認した。この点は、来年度以降の研究に繋がる点である。 3月にレンク博士をドイツに訪問し、オリンピックの現状と哲学的課題についての意見交換を行った。その結果、ピョンチャンオリンピックについての評価と分析について、商業主義による競技者への負担や競技の危険性の増大に関してのレンク博士の見解を確認することができた。 本年度研究実績に意義としては、現状のオリンピックの病理改善に対して、その基礎となる「より人間的に」の意味を確定する作業が進み、商業主義とドーピングに対する改善点の提示につながることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず4月~7月にかけてレンク博士の過去の作品を精査する中で、「より人間的に」の記述がいつ頃から見られたのかについてほぼ確認することができた。それは具体的には2006年の東京講演である。また、それに関連する「オリンピックの人間化」との記述についてもリストアップすることができた。この作業は初期の計画として必須事項であり、着実に作業を遂行することができたことは評価できる。また、8月~2月にかけて哲学的人間学に関する文献研究も行えたことはほぼ計画通りといえる。レンク博士の文献精査については、2006年の東京での講演が最初の提案であるとの仮説にたどり着いた。このことによって、この前後の機関における文献のうち、「オリンピックの人間化」に関する文献に今後の研究の焦点を絞ることができるようになった。 3月にレンク博士を訪問し、オリンピックの現状や哲学的課題について意見交換を行ったことは、当初の計画よりも時期的に遅れてしまったものの、実質的に研究計画を変更するほどの影響はなかった。 29年度の研究活動は、全体を通して見た場合に、30年度の学会発表等で研究成果の公表を順次行うための準備ができた。以上の諸点を考慮して、おおむね研究実施計画に沿って進展することができたと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、29年度の研究成果を8月開催予定の日本体育学会で公表する他、9月の国際スポーツ哲学会年次大会でも公表する計画を進め、すでに抄録およびabstractを提出・受理済みである。 30年度はオリンピックの事例と照らし合わせながら、現代オリンピックの病理である「ドーピング」と「商業主義」に焦点を合わせ、「より人間的」の観点から処方箋の提示を行う。4月~7月にかけては、現代オリンピックの抱える問題のドーピングに関して、過去のオリンピックの事例からレンク博士が提起した「人間らしさ」との合致および相反の観点から検証し、人間らしさと相反する点が検証できたならば、その根拠について人間学の知見から検証を試みる。8月~9月は、この時期に開催される日本体育学会(徳島)ならびの国際スポーツ哲学会(オスロ)にて成果の発表を行う。9月~12月は現代オリンピックが抱える問題の「商業主義」に焦点を合わせ、過去のオリンピックの事例と照らし合わせながらレンク博士が提起した「人間らしさ」との合致および相反の観点から検証を行う。1月~3月にかけて、今年度の研究成果をまとめ、来年度の成果公表に向けて論文執筆を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定した物品費のうち購入した消耗品が中心で、予定した図書の購入の選定が遅れたために予定通り購入することができなかった。この次年度使用額については当初予定していた図書の購入を進め、物品費として使用する予定である。この使用によって、当初予算の計画通りに執行できると判断する。
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