本年度は,本研究に賛同の得られた地域に在住する64~81歳の健康な一般高齢者30名(70.1±6.3歳,男性9名,女性21名)を対象に,筋発揮様式の異なるトレーニングがNeuromotor fitness(下肢筋機能)に及ぼす影響を検討した.対象者は,椅子から素早く立ち上がる(QS:15名)群と椅子にゆっくり座る(SD:15名)群に性別と年齢に層化して無作為に分けた.各群とも週3日の頻度で,椅子を用いた筋力運動10回×2~3セットに加えて,3~6分のスロージョギング,5種類程度のバランス運動,ストレッチや徒手による柔軟運動を10週間行わせ,その前後でNeuromotor fitnessの各要素を比較検討した.各要素の評価は,右方向(R-)と左方向(L-)へ前後左右に素早く歩く能力(LW),ステッピング(SP),椅子立ち上がり時の力発揮速度(RFD),2歩幅(2ST)であった. 10週間の介入期間でトレーニングを継続できなかった者はQS群1名とSD群2名の3名で,本研究の継続率は90%であった.これら3名は有害事象の発生ではなく,すべて個人的な理由による脱落であった. 1要因のみ対応のある2要因分散分析の結果,トレーニング前後で椅子から立ち上がる際のRFDに有意な交互作用(群×前後)が認められ,前後左右に素早く歩くR-LWとL-LWおよび2STに前後の有意な主効果が認められた.多重比較検定の結果,QS群のRFDは9.4%有意に改善したが,SD群に変化はなかった.また,R-LWとL-LWおよび2STは両群ともに有意な改善を示した. 以上のことから,椅子から立ち座りを用いた力発揮様式の異なるトレーニングでは,素早い力発揮様式を用いた方が下肢筋機能(立ち上がる際の力発揮)の改善に効果が大きいことが示された.
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