本研究では,ハンドボール競技の攻撃における個人戦術力を戦術的思考力および技術力の観点から評価することによりその構造を明らかにし,さらに個人戦術力を高めるトレーニング方法について示唆を得ることを目的としている。 2019年度は,大学男子ハンドボール競技者を対象に実験を行った。実験では,戦術課題として攻撃者が数的に有利な3対2の状況における攻撃を行い,戦術的思考力を状況認識と予測・判断の観点から点数化した。また,技術課題として戦術課題を行う際に必要となる攻撃の動き方を3つの局面に分け,それぞれの局面におけるプレーの質を技術力として点数化した。戦術的思考力と技術力を競技力の高いグループと低いグループとに分けて比較した結果,大学男子ハンドボール競技で試合に出場するためには、技術力を身につけていることが最低限の条件となっていること,また、低いレベルの競技者はプレーヤーごとに抱えている課題が異なっていることが明らかとなった。これら結果により,競技者のタイプごとにトレーニングにおける優先順位を戦術的思考力と技術力の観点から検討できる可能性が導き出された。この研究結果は,論文としてハンドボールリサーチに投稿する予定である。 また,2017年と2018年に行ったハンドボールコーチングを専門とする研究者との個人戦術力に関するディスカッション内容および球技のコーチングや運動学などの関連図書をもとに,2019年8月に発行された「球技のコーチング学」において「球技における競技力の養成」という題名で,球技の競技者における個人技術力を含む競技力養成のためのトレーニング計画の立案やそのトレーニングの実行について執筆した。 さらに,個人技術の上位概念となるチーム戦術について,その戦術構想の発生様相を日本スポーツ運動学会において,そうした戦術構想のコーチング事例を日本ハンドボール学会において発表した。
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