研究課題/領域番号 |
17K01726
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
谷口 勇一 大分大学, 教育学部, 教授 (50279296)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 部活動改革 / ガイドライン / スポーツ庁 / 総合型地域スポーツクラブ / 無関心から「しかたない」関心喚起へ |
研究実績の概要 |
平成30年度においては、九州内7県(沖縄県を除く)における県行政内スポーツ担当部局所属の指導主事(教員)を対象としたインタビュー調査を実施した。調査時期は以下のとおりである。大分県(2018年5月~7月に4回)、福岡県(2018年7月に2回)、佐賀県(2019年2月に2回)、長崎県(2018年8月と12月の2回)、熊本県(2018年7月と10月の2回)、宮崎県(2018年5月、8月、12月の3回)、鹿児島県(2018年8月、10月の2回)の計15回である。 調査内容は、「各県における部活動改革に関する動向」を基軸としつつ、①そのことに対する学校現場(教員)ならびに行政内の反応、②総合型地域スポーツクラブとの連携事例の有無、③連携事例がある場合、そこで生じている効果の内容、④スポーツ庁による「部活動の在り方ガイドライン」の方針を受け、各県教委内で生じている反応の状況、等を主に聴取した。なお、福岡県、佐賀県、長崎県の3県に関しては、スポーツ行政機構が一部首長部局に移管されている関係上、当該部局付き指導主事にも併せて調査を実施した。 インタビュー調査において得られた新たな知見は概ね以下のように集約可能となる。すなわち、1)スポーツ行政に所属する指導主事(教員)の多くにおいては、部活動改革動向に対する葛藤、ディレンマが生じていること、2)葛藤、ディレンマの内容は「活動日数(時間)の制限に伴う生徒および顧問教師のモチベーション低下への懸念」「公立校と私立校の格差が生じる可能性が高いことから不公平感が創出されることへの懸念」であった、3)部活動改革に伴う学校外(地域)との連携動向に関しては、概ね賛同の意向ではあるものの、自らも含めた教員の多くが総合型クラブの諸事情を把握できていない状態に終始していることに対する懸念が抱かれていた。なお、調査対象7県間に大きな意識差は見いだせなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題計画作成時においては、スポーツ庁による「部活動の在り方に関するガイドライン」策定を想定していなかった。2018年に出されることになった「ガイドライン」およびそれに伴う各県における独自のガイドライン策定作業に関与することとなった指導主事の意識は、まさに「急ごしらえ」的なものにある観を強くした。しかるに、当初の想定していた作業仮説に見合う回答(インタビュー調査における言説)を抽出することが少なったように思われる。よって、進捗状況については「おおむね順調に進展している」とした。 一方で、当該年度の研究活動においては別の視覚を見出すことにもなり得た。1つは、スポーツ庁による「ガイドライン」の公表に伴い、スポーツ行政機構においては、学校体育担当班に留まらない、いわば横断的な検討作業が為され始めていた状況を看取できた。そのことは、総合型クラブとの連携関係の促進を意図した「学校体育(班)と生涯スポーツ(班)」「学校体育(班)と競技力向上(班)」といった課内における強固な関係性の萌芽状態にほかならない。また、県独自の「ガイドライン」策定にあたっては、スポーツ・体育関係課と教育委員会内別部局(教職員課、総務課等)との緊密な関係性をも看取するに至った。このことは、部活動を取りまく教育行政全体における新たな「揺らぎ」の諸相とも理解でき、今後の検討課題と認識した。 2つめには、スポーツ行政機構が首長部局に移管されている県をめぐる動向に対する注視の必要性を感じたことである。当該の事情にある県行政においては、学校教育活動である部活動の動向に対して、教育委員会以外の部局がおおいに関心を寄せ、意見交換および協働体制の構築気運が高まりつつある。このような動向に注目することは、部活動を取りまく指導主事およびスポーツ行政内の「揺らぎ」新たな意味性の検討に貢献する可能性が高いものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の3年目における研究計画では、全国各都道府県ならびに政令指定都市における指導主事(主に部活動、総合型クラブ担当職員)に対する質問紙調査を実施し、平成30年度までに構築してきた知見の検証作業を試みることを意図してきた。無論、上記の調査研究活動は予定通り実施する計画であるが、3年目研究活動の前半期においては、もう少々、指導主事ならびに元指導主事に対するインタビュー調査を継続実施し、「変化の兆し」が顕著な状況を向けた部活動を取りまく意識の深層に迫ってみたいと考えている。なかでも、元指導主事で現在は教員である者、さらには管理職(教頭、校長)を対象とした調査活動からは、客観的視点からのスポーツ行政を取りまく「揺らぎ」の諸相およびその構造解明をめざしてみたい。 それらの調査活動を踏まえ、メインに実施することとなる質問紙調査研究においては、部活動改革動向に伴う指導主事およびスポーツ行政内に生じることとなっている「揺らぎ」の本質に迫ってみたい。そこには、地域性(都道府県別の事情)が見出される可能性が高い。なかでも、平成30年度研究活動で一部見出されることになった「首長部局によるスポーツ行政の執行」体制にある都道府県および自治体をめぐる「揺らぎ」の諸相は、これまでの教育行政の中で見出されてきた内容とは趣きを異にする可能性が高い。そのことはいかなる意味を有しているのか、その点に関する社会学的検討を試みたい。 また、上記した「ガイドライン」策定に伴う部活動評価も併せて実施する計画である。具体的には筆者の所在地である大分県教委指導主事等に協力を願い、部員(生徒)、その保護者、顧問教員、管理職(校長)を対象とした質問紙調査を実施し、新たな活動形態に対する客観的評価の状態を理解することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度調査活動報告書(冊子)を作成し、調査対象者および機関への還元を計画していたが、当該年度末に複数の追加調査を実施した関係上、その作成に至らなかった。その分の残額を次年度「その他)の科目費用と合算し執行する計画である。
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