研究課題/領域番号 |
17K01738
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
青山 清英 日本大学, 文理学部, 教授 (20297758)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コーチング学 / 実践的運動認識 / 帰納的理論 / ピリオダイゼーション / 人間学 / 体力 |
研究実績の概要 |
2019年度は英語圏、ドイツ語圏、ロシア語圏におけるコーチング学の内容を比較検討した。英語圏の文献を書籍を中心に検討した結果、その内容は二つのタイプに分類できた。ひとつはマートンの『成功するコーチング』に代表されるような、いわゆる「コーチのあり方」を中心とした、「コーチ学」的な内容を中心としたもの。二つ目はディックの『トレーニングの原理』に代表されるコーチングに関わる関連諸科学を網羅的に取り扱ったものである。 ドイツ語圏では著名なハレらの『トレーニング学』とシュナーベルらの『トレーニング科学』を検討した。ハレの『トレーニング学』は現場の経験知に基づいた知見を帰納的に体系化したものであるのに対して、シュナーベルらの『トレーニング科学』は、ハレらの『トレーニング学』の知見を「科学化」した演繹的理論と位置付けられる。 ロシア語圏については、マトヴェイエフの『スポーツトレーニングの基礎』、『スポーツ原論とその応用』とプラトーノフの『年間スポーツトレーニングのピリオダイゼーション-一般理論とその実践的応用-』や『オリンピックスポーツにおける選手の準備システム』を分析対象とした。その結果、これらの理論体系の構築においては、ピリオダイゼーション理論の影響が大きく反映していることが明らかになった。コーチング学の中核的理論である「競技力構造論」、「トレーニング論」、「試合論」がピリオダイゼーション理論を規定として構築されていた。また、注目すべき点として、通常「体力」はもっぱら自然科学的な考え方に基づいて規定されているのに対して、質的な特性として取り扱われていることである。 三言語圏を比較してみると、基本的には、英語圏と東欧圏の相違が顕著であった。特に、英語圏が自然科学を中心とした科学的理論体系であるのに対して、東欧圏のそれは理論値と経験知が統合された理論を目指していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究課題は当初から予定してきたアメリカやドイツ語圏における指導者養成プログラムの構造とその中核的学問領域となるコーチング学の特徴の分析結果をふまえて、東ヨーロッパ、とりわけロシア語圏におけるコーチング学の特徴について比較検討することであった。 これらの成果の一部は旧東ドイツのマイネルの運動認識論の検討として論文にまとめた。さらにはこのような人間学的運動認識に基づく運動学習について学会発表を行った。また、昨年度までの成果をふまえて、個別コーチング学として位置づけられる「陸上競技コーチング学」について、日本陸上競技学会より上梓された『陸上競技のコーチング学』の編集、執筆を行った。陸上競技コーチング学の取りまとめにあたっては、「測定スポーツのコーチング学」に関する課題が整理された。 また、英語圏、ドイツ語圏、ロシア語圏及び日本のコーチング学の比較検討については、現在、執筆中である。したがって、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究課題は、これまでの研究成果、とりわけコーチング学の「学問体系」と学問的課題に対する「認識の手段」に関する分析をふまえて「測定スポーツのコーチング学」の詩論を提案することにある。 すでに2019年度には先行して日本陸上競技学会より上梓された『陸上競技のコーチング学』の編集、執筆を行った際の問題点をふまえて種目類型論である「測定スポーツのコーチング学」の体系化を試みたい。この作業にあたっては、ます「測定スポーツの分類論」と「測定スポーツにおける体力の認識論的問題」が解決されなければならないと考えている。 種目分類については、運動形態をどのように整理するかといった課題がある。比較競技論を発展させるためには、種目分類の際に測定スポーツを整理するための基本的な運動形態の分類が必要となる。また、体力の認識論的な整理に当たっては、体力を自然科学的な体力として、すなわちエネルギー系の体力としてのみ理解することの問題点が、ドイツ語圏やロシア語圏の議論をふまえて検討されなければならない。「詩論」の策定にあたっては、これらの課題に重点的に取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入の余剰として残ってしまったものなので、今年度の消耗品購入に充てる予定である。
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