本研究ではまず、スポーツ指導者の養成プログラムについて検討した。その結果、日本と英語圏では、スポーツ指導者に必要な知識は,自己自身や他者とのあいだで行なわれる様々な活動を客観的に理解し,省察を通して反省的に実践していくことができるための知識とスポーツ科学に関する知識であるとまとめることができた。そして養成プログラムでは、「現場で起こりうる様々な課題をいかに対処できるようになったか」という思考・判断や態度・行動を含めた実践力を獲得することに軸足を置き、スポーツ医・科学等の知識・技能を高めつつ、現場で起こり得る実際的な課題を設定し、その課題を解決するための仮説を立て、仮説に基づき検証を行なうことで能力を高める「施行と振り返り」が考慮されていた。しかし、プログラムの現状を見ると、得られた知識が実践のなかにどのようにして位置づけられているのか、また自然科学的な理論知と実践からの帰納的な実践知がどのような「協力関係」を構築していくのかという課題が浮かび上がってくることとなった。同様な点についてロシア語圏におけるそれを調査してみると、コーチングの母体となるピリオダイゼーション理論を中心に実践知が重要視されていることが明らかとなった。さらに、ドイツ語圏ではコーチング学の中核的理論が「競技力構造論(パフォーマンス論)」、「トレーニング論」、「試合論」というように体系化され、そこではロシア語圏と同様に実践知が重視されるとともに、理論知と実践知の弁証法的関係が認められた。三言語圏を比較すると理論における実践の重要度に差異があるといえる。 以上のことから、新たに体系化が目指される「測定スポーツのコーチング学」はドイツ語圏とロシア語圏の内容を重視することが求められるといえよう。
|