研究課題/領域番号 |
17K01742
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研究機関 | 日本体育大学 |
研究代表者 |
石井 隆憲 日本体育大学, スポーツマネジメント学部, 教授 (70184463)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | チンロン / ミャンマー / 現象学的人類学 / 身体感覚 / 身体認識 / スポーツ人類学 |
研究実績の概要 |
本年度は研究2年目に当たるが、昨年同様に、①研究会の開催、②フィールドワークの実施、③研究協力者の招聘の3点について同時並行で実施した。これら概要については以下の通りである。 ①研究会の開催については、5月、6月、7月、10月、11月、12月、1月、3月の計8回を開催した。ただしすべての会において、本研究と直結する内容の研究発表がなされたわけではなく、本研究を補完するような内容であったり、あるいは本研究の方法や研究の方向性を微修正するにあたってヒントを与えるような研究も含まれている。研究会の実施によって、新たな研究視点やデータの新解釈の可能性を得ることができたことは、非常に有益であった。 ②フィールドワークについては、7月、9月、1月、2月、3月に実施した。7月はマンダレーにおいてミャンマー最大のチンロン祭である「ワーゾチンロン祭」を調査した。また、9月はミャンマーからのチンロンコーチと選手の招聘のための最終打合せのために渡航した。1月はミャンマーの独立記念日に行われるチンロン祭をヤンゴンで調査した。2月と3月は73歳のチンロン選手で昨年まで第一線で活躍していたウータンマウンレー先生を対象にインタビューを行った。ウータンマウンレー先生のご自宅のあるピンマナーのシーピンジーという村まで出かけ、ここでチンロンに関するさまざまな経験をお聞きした。すでに先生は病を患っており、ご無理をさせない程度に話を聞くこととなった。なお、ウータンマウンレー先生は、3月のインタビューの後、9日後に帰らぬ人となってしまった。 ③研究協力者の招聘については、ミャンマーからチンロンのコーチと選手を2名招聘し、2週間、日本の大学生に対してビルマ語でチンロン指導を実施してもらい、ここでのチンロン指導を参与観察した。また、ここで使用されているビルマ語の言葉の意味についても滞在中にインタビューにて確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きな問題は起こっていないが、これまでの研究でインフォーマントとして、非常に多くの情報を提供してもらってきたウータンマウンレー先生が2年目の研究を終えたところで他界してしまい、いわゆる昔の時代のチンロンに対する考え方や認識、あるいはチンロンを行うことについての感覚をどのように言語化するのか、ということについての調査ができなくなってしまった。ウータンマウンレー先生と同じように70歳を超えても第一線で活躍する現役チンロン選手はこの世には存在しなくなってしまったことから、こうした選手の持つ感覚を調査することはできなくなってしまった。この点については、当初の研究計画の中で計画されていなかったものであるが、本研究を進めていく過程で、非常に面白い研究材料となる知識の提供が多くあり、それらの知識を体系的にまとめていく途中であったため、とても残念である。ただし、このことが本研究の本来の目的の遂行を不可能にするものではない。むしろ、新たなインフォーマントの協力を得ることで、別の次元からの技術認識の体系や指導用語、さらには身体感覚を得ることができるのではないかと考えている。なお、現在現役チンロン選手ではないがウータンマウンレー先生と同じような経歴を持つ方が、あと2人いるので、この方々に研究の協力をお願いしたいと考えているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後もこれまでと同様に、主にミャンマー国内においてフィールドワークを実施することと、研究協力者の招聘をおこない、日本においても時間をかけてインタビューを実施することを優先させる。チンロンを実践する中で言葉が使われることは、思った以上に少ないのであるが、それぞれ選手たちは自分がプレイする中で独自のタイミングの取り方やチンロンボールに対する独自の距離感などを持っている。こうしたものは言葉にはならないが、プレイヤーが心の中で自分自身とコミュニケーションを取る中で安定させている。そのため、こうした心の声についても拾い出していくことに時間を割いて調査を実施する。加えて、こうした問題をより鮮明にするために、複数のチンロン選手たちを対象に時間の許す限り、インタビューを実施したいと考えている。
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