本研究の目的は、「アメリカンフットボールにおける衝突時の頭部への作用を明らかにすることである」。申請者は加速度計を用いて3年間にわたる試合時と練習時の衝突時の頭部加速度を測定してきた。その結果、頭部衝突総数は46962回(9536回/32試合と37426回/411練習)確認された。衝突部位ではサイドでの衝突(42.2%)が最も多く、次いでフロント(26.9%)であった。頭部キネマティクスでは、試合時の平均最大直線加速度(LA)22.2 G、平均最大角加速度(AA)1692.1 rad/sec2、頭部損傷閾値(HIC)23.7であり、練習時のLA20.6 G、AA1672.6 rad/sec2、HIC 18.9であることを明らかにした。今後は、これら頭部加速度データから得られる指標と認知機能や筋力などの関連を調査することで、脳振盪予防の基礎資料を得ることが期待される。 一方で、この手法は頭部加速度を測定するものであり、頭部への作用力を直接評価できない。そこで申請者はヘルメット頭頂部の外殻に貼付したひずみゲージ信号から、インナーパッドにより応答が低減された後の頭部作用力応答を推定するデジタルフィルタを構築している。しかし、より精度の高いデジタルフィルタの構築に向けてヘルメット複数部位からひずみ応答の取得に課題が残っていた。実験を繰り返した結果、場所を変えるとヘルメットの形状に影響を受けること、さらに、硬質素材からなるヘルメットでは複数ひずみゲージからのデータが放散してしまい、データを取得するうえでの新たな課題が明らかとなった。
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