研究課題
本研究は、筋サテライト細胞の培養方法を開発し、培養方法の改善による筋サテライト細胞の移植効果を検証することを目的としている。特に、生体内での骨格筋環境を模倣した培養方法「細胞外マトリックスニッチ」の構築を行い、生体に近い状態での筋サテライト細胞の培養・増殖挙動、組織再生構築能力の解析を行う。本年度は、前年度までに得られた結果をもとにヒト細胞への応用を試みた。ヒト試料を用いた実験については、東京医科歯科大学医学部倫理審査委員会の承認を受けて行った。ヒト筋サテライト細胞は、CD45陰性及びCD31陰性分画のうち、Integrin a7陽性かつCD56陽性分画に存在していることがわかった。次に、ヒト組織における細胞外マトリックスの発現解析を免疫染色法にて行った。その結果、ヒト組織においても、マウス組織同様に筋サテライト細胞周辺でラミニンα3,4,5の発現が観察され、培養過程でのラミニンα3,4,5の添加実験では、in vitroにおける未分化維持に重要であることが示唆された。「マウス細胞とヒト細胞の性質の違い」は本研究の目標達成の為の大きな要因として挙げられていたが、マウス細胞の培養方法を元にして、ヒト筋サテライト細胞の培養増幅方法を確立することができ、培養スケールアップ技術の基盤を作ることが可能となった。今後、in vitro での培養増幅の検討について、JAK-STAT シグナル阻害剤の添加や顆粒球コロニー刺激因子である G-CSF を添加することによる細胞増殖への促進効果について、引き続き効果を検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
予定していたヒト組織に対する幹細胞の分離、及び培養方法の確立を行うことができた。当初予定していた実験結果はほぼ得られたことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。引き続き、確立された培養方法を用いて免疫不全マウスに細胞移植を行い、移植効果(効率)を解析する実験を予定している。
前年度で行ったマウス筋サテライト実験と同様、ヒト細胞を用いて骨格筋損傷モデルマウスに対し、培養した細胞群とマトリゲル上で培養した細胞群を移植投与し、損傷骨格筋再生への寄与を解析する。骨格筋の損傷・再生モデルとしては Cardiotoxin やブピバカインを筋注して作成する。この場合の損傷は一過性で通常2週間で損傷前の状態に修復・再生される。この系を用いて、移植したヒト筋サテライト細胞およびそれらをサポートする細胞や細胞外マトリックスが再生を促しているかを、骨格筋組織の凍結切片を用いて、各種マーカー(Pax7、MyoD、Myogenin、Myosin heavy chain) 免疫染色により評価する。
本年度、筋サテライト細胞おける細胞外マトリックスについての論文を投稿予定だったが、マウス・ヒトだけでなくその他の生物種の筋サテライト細胞についても追加で実験を行うように計画を変更したため、未使用額が生じた。このため、次年度について新たにデータを追加した論文を作成し、投稿・出版したいと考えており、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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