研究課題
糖尿病患者の運動時の過剰血圧(昇圧)応答は心血管イベントのリスクとなるため,運動処方の幅を低下させ,運動療法の効果を下げ得る.インスリンは交感神経活動を亢進することと,2型糖尿病は高インスリン血症を呈することから,異常昇圧反射の機序にインスリンの関与を疑った.そこで,本研究では,インスリンに着目し,2型糖尿病による運動昇圧反射異常の機序を,生体・神経線維・神経細胞のそれぞれのレベルにて明らかにすることを目的とした.本年度は,ヒト(生体)を対象とした研究を実施した.非糖尿病の高齢者を対象に,虚血環境下の掌握運動に対する昇圧応答を測定した.その結果,インスリン抵抗性関連指標の1つであるヘモグロビンA1cは,運動昇圧応答と有意な正の相関関係が認められ,重回帰分析の結果,運動昇圧応答の説明変数であることが明らかになった.また,インスリン抵抗性関連指標の1つであるHOMA-IRの異常群は,境界群・通常群に比べて運動昇圧応答が有意に高かった.以上より,インスリン抵抗性は,2型糖尿病による異常昇圧応答に関与する要因の1つであることが示唆された.また,昨年度から継続している組織(神経線維)レベルの研究では,ラット神経-筋標本を用いた単一の筋細径求心神経における,筋代謝受容器反射を担うとされるTRPV1に対するインスリンの影響を検討した.インスリンによりTRPV1作動薬のカプサイシンに反応しなかった線維が,有意に反応するように変化した.また,カプサイシン誘発性活動電位はインスリンにより増加する傾向となった.カプサイシンに反応し始めるまでの潜時についてはインスリンの有意な効果は観察できなかった.以上より,2型糖尿病の異常昇圧反射の機序の一つに,高インスリン血症やインスリン抵抗性が関与し,インスリンにより筋機械受容器反射,筋代謝受容器反射が過剰になる可能性が示唆された.
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