研究課題
本課題では,コンタクトスポーツによる頭部への打撃の際,頭蓋骨を伝わる過大な振動(骨導)がどのように脳や聴覚機能に影響を及ぼすかを解明するため,世界では初めてとなる,ヒト頭部と聴覚器官を組み合わせた有限要素法モデルを用いてシミュレーションを行う.さらに,これらの結果を元に,脳震盪だけでなく,過大な骨導に起因する難聴を保護するための新しい「Head & Ear プロテクター」の提案を試みる.今年度は頭蓋骨・脳を想定した軟組織・聴覚器官が組み入れられた有限要素法ヒト頭部モデルを用いて,竹刀による打撃時の骨導シミュレーションを行った.その結果,頭蓋骨のみのモデルでは200Hz付近での骨導成分が支配的であるのに対し,軟組織が組み入れられると100Hz以下の低周波領域へ骨導が移動することが分かった.一方で軟組織の有無に関わらず聴覚器官付近での骨導は比較的小さく,打撃と聴覚器官のダメージとの直接的な関連性は認められなかった.これらのシミュレーション結果を検証するため,ゼラチンおよびウレタン樹脂で作製した軟組織を有する頭蓋骨模型に竹刀で打撃を与えた時の骨導を,模型に貼り付けたひずみゲージにより測定した.軟組織を入れた頭蓋骨を強打した時では頭蓋骨のみの場合よりも打突部のひずみが大きくなった.これは軟組織を組み入れた場合に打突部付近に骨導が集中し,ひずみは大きくなる一方,他の点では軟組織の緩衝効果により,ひずみが小さくなったためと考えられる.打突部,後頭部,耳部のひずみの時間波形を周波数解析すると,後頭部のひずみは軟組織を用いた場合に10~30Hzでピークが見られるが,軟組織がない場合ではこれらのピークはなくなり,200Hz付近でピークとなった.これらの結果から,後頭部では脳組織があることにより低い周波数領域で大きなダメージを与えていると考えられる.
3: やや遅れている
当初の計画では,研究代表者が以前に構築した有限要素法による剣道の面防具モデルをヒト頭部モデルに組み込む予定にしていたが,モデル同士のマッチングに時間を要し,一体型のモデルが完全に構築されていないため.
引き続き,本課題の研究協力者である韓国のKim Namkeun氏とともに一体型モデルの構築を進める.また,フェンシングのマスクや,ヘルメットなどもモデル化を試みる.
高性能マイクが内部に組み込まれた,音響計測用頭部マネキンの購入予算を計上していたが,今年度の研究を進める中で,これまでの実験で使用してきた頭蓋骨内部に複数の小型マイクを挿入した方が安価で,より詳細な実験が進められると判断した.そこで高額な頭部マネキンに代わり,複数の小型マイクを購入した.今後の使用計画として,新たに複数の小型マイクを購入するとともに,頭蓋骨模型を更新して新たな「骨導・音響計測システム」を構築する予定である.
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Proceedings of the 2017 international Budo Conference
巻: Supplement ページ: 48-49
https://www.sendai-nct.ac.jp/wp-content/themes/omc/files/college/113_03_02.pdf