顔面の部位と非侵襲性の皮膚刺激スピードが副交感神経活動に及ぼす影響を検討した.大学生5名を対象として,前額部(V1),頬骨部(V2),顎部(V3)の3ヶ所の皮膚表面を,刺激ツール(ソマプレーン)を用いて,座位安静の後,刺激を5分間にわたり与えた.刺激は,ツールのローラー部を皮膚表面に押し当て,被験者自らが前後に移動させることで与えた.刺激範囲は皮膚表面の5cmで,その距離を0.5秒,1.0秒,5.0秒で移動させる3条件で実施した.試行順はランダム化し,1日3試行を3日間,1週間以上の間隔をあけて実施した.実験中,心拍計を装着し,心電図のR波とR波の間隔(RRI)を連続記録した.その結果,刺激前に比較して,刺激中のRRIは,V1の全条件で有意に延長し(P<0.05),副交感神経活動が活発になっていた.一方,V2,V3も刺激中のRRIが延長したが,有意差が見られたのはV2で0.5秒,V3で5.0秒の条件のみであった.また,副交感神経活動の指標であるHFnu値も,RRIと類似した結果であった.今回,刺激部位や刺激スピードによって,自律神経活動の反応が異なる様子が観察された.これは,副交感神経活動を効果的に亢進できる場所・スピード条件が存在することを示唆するが,今回はサンプル数が少なく,多くの被験者を対象とした検討が必要である.また,自分自身で刺激を与えることでも副交感神経活動を活発にできることが明らかになったのは大切な成果であり,ストレスに対するセルフケアの方法となり得ることを示唆するものである. 研究期間全体として,非侵襲性の皮膚刺激を顔面や耳に与えることによって副交感神経活動が活発になること,また,それによって暗算などのストレス負荷中の交感神経活動を抑制する可能性が示唆された.今回の研究で用いた刺激ツールは誰にでも使用できることからセルフケアとしての有効性も示された.
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